ボトムアップ・アプローチ #
投資信託のポートフォリオを構築する手法の一つにボトムアップ・アプローチがあります。ボトムアップアプローチは、個別銘柄を一つずつ積み上げることで、ポートフォリオを構築する手法です。英語ではbottom-up approachといいます。
つまり、運用会社のアナリストやファンドマネージャーが、投資候補の企業のファンダメンタルズを丹念に調査・分析し、この結果に基づいて投資信託に実際に組み入れる銘柄を選択し、それらの銘柄を積み上げることでファンド全体のポートフォリオを構築する方法です。
この時、アナリストやファンドマネージャーは、実際に投資候補の企業を訪問して、経営者、財務担当者、あるいは研究開発担当者などと面談を行います。これを「会社訪問」といいます。企業の財務諸表の分析も個別銘柄の選択課程においては非常に重要ですが、多くのアナリストやファンドマネージャーが、この会社訪問で得られる様々な情報を最も重視すると言い、年間で数百社を訪問するというファンドマネージャーもいます。
ボトムアップ・アプローチでは、マクロ経済の状況や投資する企業が属する業界の動向などにはあまり注目せず、あくまでも個別企業の業績が重視されます。
ボトムアップアプローチの流れのイメージ #
- 個別企業の分析・・・投資信託の運用者は、まず個別企業の財務諸表、収益性、競争力、経営陣、成長性などを徹底的に分析します。特に企業の強みや潜在的な成長機会を重視します。
- 企業の将来性の評価・・・分析を通じて、その企業が市場の中でどのようにパフォーマンスを発揮するか、長期的に成長する可能性があるかを判断します。
- 投資対象の選定・・・良好な成長見込みがあり、かつ適切な価格で取引されている企業を選び、それらをポートフォリオに組み込みます。
- ポートフォリオ構築・・・各企業の個別分析に基づき、全体のポートフォリオを構築します。ここでは市場全体の動向やマクロ経済の影響はあまり考慮せず、各企業の実績に基づいて資産配分を行います。
ボトム・アプローチの特徴には次が挙げられます。 #
ボトムアップ・アプローチの特徴としては、企業(個別銘柄)に焦点を当てることと長期的な視点が挙げられます。
企業に焦点を当てる #
ボトムアップアプローチでは、市場や業界の全体的なトレンドよりも、企業固有の財務指標や競争優位性に焦点を当てます。たとえ市場全体が低迷していても、個別企業の強みを見極めて投資します。
長期的視点 #
ボトムアップ・アプローチでは、個々の企業の将来の成長性に基づいて投資するため、通常、長期的な投資戦略が採用されます。
ボトムアップ・アプローチの著名なファンドマネージャー #
ボトムアップ・アプローチで成功した著名なファンドマネージャーに次の人物が知られています。
ピーター・リンチ (Peter Lynch) #
かつてフィデリティ・マゼラン・ファンドのファンドマネージャーとして活躍。1977年から1990年までの13年間で、彼が運用したフィデリティ・マゼラン・ファンドは年率平均29.2%のリターンを記録しました。ピーター・リンチは、ボトムアップアプローチを使い、個別企業の分析に基づいて投資を行いました。リンチは「知っているものに投資しなさい(Invest in what you know)」という哲学で知られ、日常生活の中で見つけた企業やアイデアに基づき投資するスタイルを取っていました。
ウォーレン・バフェット (Warren Buffett) #
バークシャー・ハサウェイのCEOであり、世界で最も有名かつ富裕な投資家の一人です。バフェットは個々の企業の財務健全性や経営の質を重視することで、長期的に成功を収めています。バフェットは「価値投資家」として知られ、企業の内在的価値を基に投資判断を行います。バフェットの投資哲学は、優れた企業を適正価格で買うというものです。バフェットの「Our Favorite Holding Period Is Forever」(私たちのお気に入りの保有期間は永遠です)という言葉も有名です。
ジョン・ネフ (John Neff) #
バンガード・ウィンザー・ファンドのファンドマネージャーとして30年間にわたり運用を行っていました。彼が運用したファンドは市場平均を大きく上回るリターンを長期的に達成。彼もボトムアップアプローチを採用し、割安株(低PERの株)に焦点を当てるバリュー投資家でした。個別企業の詳細な分析を行い、収益の安定性や低リスクに基づいて投資を行いました。
チャーリー・マンガー (Charlie Munger) #
ウォーレン・バフェットの右腕として知られ、バークシャー・ハサウェイの副会長。バフェットと同様に、企業の基礎的な価値に基づいて投資を行うボトムアップアプローチの信奉者です。長期的な視野に立ち、企業の本質的な成長力や競争優位性を重視します。
奥野一成(おくの かずしげ) #
農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)のCIO(最高投資責任者)。奥野氏は、日本国内外で非常に有名なバリュー投資家で、個別企業の詳細な分析に基づくボトムアップアプローチを採用しています。企業の内在的価値に注目し、特に財務データや成長ポテンシャルを重視しています。「長期厳選投資おおぶね」「おおぶねグローバル(長期厳選)」「おおぶねジャパン(日本選抜)」を運用しています(2024年9月20日現在)。
藤野英人(ふじのひでと) #
レオス・キャピタルワークスの代表取締役社長 CIOの藤野氏の投資スタイルは、ボトムアップ・アプローチに基づいています。彼は個々の企業の成長性、経営の質、財務データ、そして経営陣との対話を重視し、その企業が持つ潜在的な価値を発掘することを主な目的としています。また、企業訪問を多く行い、現場での状況確認や経営者との対話を通じて、企業の本質的な価値を見極めています。「ひふみ投信」「ひふみクロスオーバーpro」のファンドマネージャーです。
これらのファンドマネージャーは、企業の詳細な分析に基づくボトムアップアプローチを採用し、長期的に高いリターンを上げたことで知られています。それぞれの投資スタイルは異なる部分もありますが、共通して個々の企業の強みや成長性を詳細に評価することを重視しています。
ボトムアップアプローチのまとめ #
ボトムアップ・アプローチは、個別企業の詳細な分析を通じて投資先を選び、それらを積み上げてポートフォリオを構築する運用手法です。市場や業界全体の動向よりも、企業固有の財務健全性や成長性に焦点を当てるのが特徴で、長期的な視点を重視します。この手法はピーター・リンチやウォーレン・バフェットなど、多くの著名なファンドマネージャーによって成功例が知られています。