投資信託の信託報酬率が運用途中で変更されることは非常に稀ですが、いくつかのケースにおいて変更されることがあります。
一つは、ファンドが特定の条件において信託報酬率を変更することをあらかじめ約款で定めていて、それに従って変更されるケースです。もう一つは、運用会社の意向で、ファンドの資産が大きくなったのでそのスケールメリットを投資家に還元するためなどといった理由で、運用途中で約款を変更し信託報酬率を変更するというケースです。
信託報酬率の変更の条件を約款で定めているケース #
運用途中での信託報酬率の変更を約款で定めているケースには、①市場の状況により変更する、②純資産総額の規模に応じて変更する、③ファンドのパフォーマンスにより変更する、というファンドがあります。これらのケースでは、約款で変更することを定めているので、信託報酬が変更されても、約款をその都度変更する必要がありません。
市場の状況により信託報酬率が変更されるファンド #
これには、国債など債券に投資するファンドにおいて、金利の変動に応じて信託報酬率を変更することを約款で定めているファンドがあります。
例えば、新発10年固定利付日本国債の利率の直近3回の平均を基準として、この利率が2.5%以下の場合は、信託報酬率は純資産総額に0.702%(税込)、2.5%超3.5%以下の場合は0.810%(税込)、3.5%超の場合は0.918%(税込)というファンドです。各々の水準を超えた場合もしくは下回った場合には、翌月の第一営業日から信託報酬料率が変更されるというような記載がされます。
信託報酬率が国債の利率の変更によって変更するケースのイメージ
新発10年固定利付日本国債の利率の平均 | 信託報酬率(消費税込み) |
---|---|
2.5%以下の場合 | 年率0.702% |
2.5%超3.5%以下の場合 | 年率0.810% |
3.5%超の場合 | 年率0.918% |
純資産総額の規模に応じて変更されるファンド #
これは、ファンドの純資産総額が大きくなるにつれて、信託報酬率を引き下げることを約款で定めているファンドです。ファンドの純資産総額が大きくなると、ファンド運用に必要な経費にスケールメリットが発生します。例えば、100億円規模のファンドを運用するコストが年間1億円だったとして、そのファンドの規模が10倍の1,000億円になったからといって、運用コストも10倍の10億円は必要なく、その分を投資家に還元するという運用会社の姿勢です。
その一例が、コモンズ投信が運用する「コモンズ30ファンド」です。コモンズ30ファンドでは、純資産総額の増加に応じて、次のように信託報酬率を引き下げることを約款で定めています。(2024年9月23日現在)このような信託報酬を一般に「受益者還元型信託報酬率」と呼びます。
純資産総額 | 信託報酬の実質的負担(消費税込み) |
---|---|
500億円まで | 年率1.078% |
500億円を超える部分 | 年率0.979% |
1,000億円を超える部分 | 年率0.869% |
3,000億円を超える部分 | 年率0.748% |
パフォーマンスにより変更されるファンド #
これは、成功報酬型の信託報酬のケースです。ファンドの基準価額が一定の水準までは、基本の信託報酬率が適応され、それを超えた場合に、超えた部分に基本の信託報酬率よりも高い割合で信託報酬がかかるというものです。
その一例が、スパークス・アセット・マネジメントが運用している「スパークス・ジャパン・スモール・キャップ・ファンド (愛称 ライジング・サン)」です。
同ファンドでは、基準価額が上昇して、一定のハードル価格と呼ばれる価格を超えた場合、基準価額と当該ハードル価格の差額の13.2%(税抜12%)が、実績報酬として計上され。翌営業日に信託財産に費用として計上され、計算期間末に信託財産から支弁されます。この部分は、全額運用会社が受け取ります。つまり、運用が上手くいったことの成功報酬と捉えることができます。
信託報酬率の変更の条件を約款で定めていないケース #
次に、約款では、信託報酬の変更が言及されていないものの、運用会社の判断で信託報酬率を変更するケースです。これには①純資産総額が大きくなり、それを投資家に還元させるため、あるいは、②他のファンドとの競争力強化のためにより変更される(通常、引き下げ)ケースがあります。これらの場合は、その都度、約款が変更されます。
スケールメリットを投資家に還元するために信託報酬を変更するファンド #
あらかじめ約款においては純資産総額の変化に応じて信託報酬率を変更することを定めてないものの、運用会社の判断で、運用途中で約款を変更して、信託報酬率が変更されることがあります。
例えば、セゾン投信の「セゾン・グローバルバランスファンド」がその一例です。同ファンドの2024年9月現在の投資対象ファンドの信託報酬を含めた実質的な信託報酬率は0.56%d±0.02%(税込)ですが、2007年に設定されて以降、既に数回の実質的な信託報酬率の引き下げを実施しています。これは、ファンドの純資産総額の拡大により、投資対象先のバンガードのファンドの運用管理費が低減されたことを反映させたものと、純資産総額が伸びたことで、セゾン投信が受け取る信託報酬を引き下げたものがありました。セゾン投信が受け取る信託報酬の引き下げ時(2022年3月)には、セゾン投信では、「この改定は、「お客さまのため」にのみ資産運用業務に従事し、専ら長期投資に努めることを公約したフィデューシャリー宣言に基づく行動です」とコメントしています。
他のファンドとの競争力強化のために信託報酬を変更するファンド #
これはインデックスファンドにおいてよく見られるケースです。
野村アセットマネジメントのFunds-iシリーズ、三菱UFJアセットマネジメントのeMAXISシリーズ、ニッセイアセットマネジメントの<購入・換金手数料なし>シリーズ、三井住友トラスト・アセットマネジメントのSMTインデックスシリーズ、アセットマネジメントOneのたわらノーロードシリーズなど、近年の低コストのインデックスファンドへの投資家の関心の高まりを反映して、多くの運用会社が低コストのインデックスファンドをシリーズ化して設定・運用しています。この低コスト競争を反映して、多くの運用会社ではこれらのシリーズの信託報酬の引き下げを行っています。
三菱UFJアセットマネジメントのケース
なかでも、三菱UFJアセットマネジメントは、同社の低コストインデックスファンドシリーズのeMAXIS Slimについて、「業界最低水準の運用コストを、将来にわたってめざし続ける」ことを掲げており、eMAXIS Slimシリーズのファンドの信託報酬率を適時に引き下げています。また、同シリーズは、前述のコモンズ投信と同様の純資産総額の増加に応じて、信託報酬率を引き下げる受益者還元型信託報酬率を採用しています。
信託報酬率の変更のまとめ #
投資信託の信託報酬率は運用途中で変更されることがあります。変更の理由として、約款で定めた条件(市場状況、純資産総額、パフォーマンス)に基づく場合や、運用会社の判断によるもの(スケールメリットの還元や競争力強化)があります。低コストインデックスファンドでは投資家ニーズに応じて信託報酬率が引き下げられることもあります。