顧客本位の業務運営に関する原則 #
「顧客本位の業務運営に関する原則」とは、金融事業者が顧客本位の業務運営を実現するために参考とすべきベスト・プラクティスを示したものです。この原則は、金融庁によって策定され、2017年3月30日に公表されました。
金融庁は、この原則を金融事業者に導入するよう呼びかけています。金融事業者は、この原則をもとに顧客の利益を第一に考え、他社と同じアプローチに陥ることなく、より良い金融商品やサービスの提供を競い合うことが求められています。
ここで「金融事業者」とは、金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用などを行うすべての金融機関を指します。投資信託の運用会社も対象です。
顧客本位の業務運営に関する原則策定の背景 #
これまで金融庁は、適合性の原則や善管注意義務、委託会社の忠実義務などを法的に定義してきました。また、運用会社などはフィデューシャリー(受託者責任)宣言や国連責任投資原則を採択してきましたが、これらの取り組みが現実的に顧客本位の業務運営に繋がっていないことが、原則策定の背景にありました。
具体的には、金融庁が2017年3月に公表した「顧客本位の業務運営に関する原則の定着に向けた取組み」の中で、金融事業者の現状として、フィデューシャリー宣言を行った事業者であっても顧客本位の業務運営の実現に大きな進展が見られないと指摘されています。たとえば、①特定資産に投資を限定したテーマ型の商品が販売額上位に多く残っていること、②投資信託の販売額と解約・償還額がほぼ同額であり、資産残高の増加に寄与していないこと、③売れ筋投資信託の9割が毎月分配型であり、特に地方銀行では積立投信の半分以上が毎月分配型である点が挙げられています。
金融庁は、これまでの形式的な規制遵守(ミニマム・スタンダード)のチェックから、実質的な良質な金融サービス提供(ベスト・プラクティス)への移行を重視しています。そのために、①金融商品・サービスに関する手数料等の開示促進、②金融機関による顧客本位の取り組みの自主的な公表、③当局が検査・監督で得た知見の積極的な公表、④優良金融機関の表彰制度の創設などを通じて、顧客から正当に評価されるメカニズムの構築を目指しています。(平成28事務年度 金融行政方針より)
顧客本位の業務運営に関する原則 #
「顧客本位の業務運営に関する原則」は、以下の7つの原則で構成されています。(2021年1月15日改訂)
【顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等】 #
原則1.金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・ 公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。
【顧客の最善の利益の追求】 #
原則2金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。
【利益相反の適切な管理】 #
原則3.金融事業者は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把握し、利益相反の可能性がある場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。金融事業者は、そのための具体的な対応方針をあらかじめ策定すべきである。
【手数料等の明確化】 #
原則4.金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。
【重要な情報の分かりやすい提供】 #
原則5.金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。
【顧客にふさわしいサービスの提供】 #
原則6.金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。
【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】 #
原則7.金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。
運用会社の対応 #
この原則の公表を受け、各運用会社は原則の受け入れを表明し、金融庁が発表した補足原則を含め、それぞれへの対応方針や、実施しない場合の理由や代替案を作成・公表しています。また、年に一度、取り組みや進捗状況を公表することが求められています。
顧客本位の業務運営に関する原則のまとめ
「顧客本位の業務運営に関する原則」は、金融事業者が顧客の利益を第一に考えたサービスを提供するためのベスト・プラクティスを示すものです。金融庁が2017年に策定し、金融事業者に自主的な取り組みを求めています。この原則には、顧客の利益追求や利益相反管理、手数料の明確化、情報提供、適切なサービス提供など7つの指針が含まれており、各社は方針や進捗状況を定期的に公表することが求められます。