皆さんは、投資信託などの金融商品を購入される際の窓口として、IFA(Independent Financial Advisor)という選択肢があるのをご存知でしょうか?
恐らくほとんどの人は、「見たことも聞いたこともない」とお答えになるでしょう。実際、私が某銀行の職員向け研修で同じ質問を投げたところ、「知っている」と答えた方は一人もいませんでした。金融業界内ですらIFAという職業の認知度は高くなく、ましてや一般の方であればなおさらのこと、日本ではおそらく99%の人が知らない職業かもしれません。
IFAとは、大雑把に言えば証券会社の代理店。保険の代理店制度を想像いただけると理解しやすいかと思いますが、例えば、企業や個人が証券会社に登録することで、証券会社の代理店(正確には金融商品仲介業者)として、投資信託や株式・債券の販売が行えるようになっています。こうした制度は、意外に思われるかもしれませんが15年も前から運用されており、現在では900社に及ぶ仲介業者(IFA)が登録しています。(金融庁HP:https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/chuukai.pdf)
今回のシリーズでは、IFAとは何なのか、皆さんにとってどんな存在なのかを知っていただきたいと思い、自らの体験を通じてお話をさせていただくことになりました。実は私、1997年秋に日本インベスターズ証券(現SBI証券)の創業に準備段階から参画し、IFAが証券業務を行う際に必要な業務インフラを提供するプラットフォーマー作りに関わらせていただきました。なんでそんな会社を作ったかって?アメリカでは、投資信託を購入する窓口として証券・銀行などの金融機関(ネット系除く)とIFAという独立系アドバイザーの2択になるんですが、国民の4割がIFAから購入していると言ったら驚かれるでしょう。私たちは、日本にもそんな時代が必ず来るに違いないと信じて起業したんです。
日本の投資信託は「販売」を除くとグローバルスタンダード
1997年秋、就職活動をしていた私は英国の老舗運用会社ジャーディンフレミング(現JPモルガン・アセットマネジメント)の社長と面談しました。当時39歳の私と宮坂社長との出会い、そして以下の彼の言葉がその後の私の投信人生を決定づけてくれました。
「日本の投資信託の問題点を、『運用』・『制度』・『販売』という3つの観点で述べると、『運用』と『制度』はグローバルスタンダードになったが、『販売』だけは非常にお粗末な状態、暗黒時代がいまだに続いている。この状況を打破するために投資信託専門の販売会社を作りたい。日本の投資信託を『販売』の立場から変えていきたい」
投資信託の問題点:運用
「日本の投資信託の運用は、かつては証券会社の子会社にしか認められておらず、競争原理の働かない世界だったが、1990年代に入って英国からジャーディンフレミング、米国からフィデリティが参入、異業種系からも銀行系・保険会社系、それから“さわかみ投信”のような独立系が参入。今や運用商品に関しては、アメリカ人がアメリカで購入しているものと同じようなものを日本人が日本で購入できるようになった。」
投資信託の問題点:制度
「制度(法律)も、1998年の投信法改正で公認会計士による監査が義務付けられたことで犯罪まがいの行為が許されなくなった。それまでであれば、親証券会社のディーラー部門の“しこり玉(株式ディーラーが失敗した取引)”」を系列の投信会社に引き取ってもらう行為や親証券会社の株式売買手数料を増やすために、系列投信会社を通じて過剰な売買を繰り返すような利益相反行為など、今の人からすれば耳を疑うような犯罪的行為が日常茶飯事。日経平均が上昇を続けても、なぜか日本株投信なのにどんどん値下がりするのが日本の投資信託だった。」
投資信託の問題点:販売
最後に「販売であるが、これがいけない。証券マンは短期の相場観に基づく株式営業のやり方が指の先まで染みついているせいか、投資信託も同じように短期の回転売買が横行している。証券会社は儲かるだろうが、お客さんは絶対に儲からない。投資信託と株式では“使い方”が違うことを世間に広めないといけない。君は大学でポートフォリオ理論を教えているのでちょうどいい、まさに長期国際分散投資こそが投信販売の王道である。長期国際分散投資の伝道師になれ。それが君のミッションではないのか?」と。。。
それまで外資証券の貪欲な世界に浸っていた私にとって、宮坂氏の言葉は私の中に少しだけ残っていた「公」のために捧げる生き方を引き出してくれたのかもしれません。「お金」のためにではなく、自分のような者でも知識や経験が社会の役に立てることがあることに気付きをいただいたのです。このとき、外資証券時代では感じたことのない別の感情といいますか、高揚感と使命感がメラメラと燃えた瞬間を今でも思い起こされます。
20年前に「毎月分配型」と「投信単品売り」を完全否定する証券会社が誕生した・・・
会社の設立は1998年の4月ですが、私は創業メンバーの一人として宮坂さんを含めた5人でスタートしました。私の担当は、販売商品の選別と販売手法、提案ツールの開発です。正直申して、当時の私は投資信託の専門家というわけではありませんでしたので、投資信託の商品周りのこと、販売事情を勉強するために、米国での会社訪問、販売ツールの収集、文献の買い付け(当時の日本に国際分散投資に関する書籍は皆無)から始めるような次第でした。
日本インベスターズ証券の特徴を挙げますと、
- 証券会社ではありますが、商品は投資信託だけ
- 投資信託は生涯販売し続けるに足る本当にいいものだけを厳選(中立的な選定)
- 新規設定商品は採用しない(海外でトラックレコードがあれば別)
- 毎月分配型商品は販売禁止(お客様のためにならないという理由)
- 販売哲学は「長期国際分散投資」なので、ポートフォリオ販売(4-5本で国際分散)で10年以上の長期運用が原則(回転売買禁止)
- 販売者は、地域の保険代理店系ファイナンシャルプランナー、会計事務所が中心 (つまりこの人たちがIFA[独立系アドバイザー]のことです)
「積立投資」は?と思った人がいるかもしれませんね。私たちが「積立投資」に力を入れ始めたのは2000年のITバブル崩壊以降の下落相場のなかで、長期保有を前提に運用いただいたお客様の中から、長期に及ぶ大幅な値下がりに耐えられなくなって売却してしまう姿を多く見てからのことです。したがって、「長期・分散・積立」投資が定着したのは、2006年頃のことになります。ITバブルの苦い経験を踏まえて、その後に積立投資を実践されたお客様の資産は、2008年のリーマンショックを経ても相当に増えていることは言うに及びません。
「長期・積立・分散」投資は、お客様の立場からすると成功の確率を高くする運用手法ですが、目先の収益を第一義とする金融機関の立場からすると都合の悪い提案手法になります。「長期・分散・積立」投資の真逆である「短期・集中・一括」投資こそが、金融機関にとって都合のいい販売モデルとなります。つまりは何がこの後に起きたのか?そうですね。日本インベスターズ証券は、2010年、SBI証券に身売りをすることになってしまったのです。私たちとほぼ同時期に米国から上陸した同業のLPL日本証券(現PWM日本証券)も、この後、私たちと同じような状況に陥り、プラットフォーマーの第1陣は全滅してしまいました。
お客様に寄り添った提案をすると会社が食べていけない、その逆を行うとお客様は確実にダメージを受けるが、会社は美味しい思いをできるって、これっておかしくないですか?これを、私は「最適提案と適正収入のパラドックス命題」と呼んでおりまして、志の高いIFAの人たちと最近研究会を立ち上げました。お客様の利益になる提案をしても、IFAが食べていけるビジネスモデルの研究です。「上地ゼミ」の上部組織でスタートしました。
“なんちゃってIFA”にご用心
現在、IFA業界はどうなっているのかというと、私たちを引き継いでくれたSBI証券、PWM日本証券、楽天証券、エース証券がプラットフォーマーの中心となってIFAに業務インフラを提供しています。しかしながら、私たちの創業理念が彼らに承継されているかというと甚だ疑問に感ずるところがありまして、実は現在のかなりのIFAは過去証券会社でやっていた短期売買を独立代理店のカタチにして行っているだけの人も少なくありません。皆さんの立場から、「IFAを通じて投資信託を購入する」場合、その辺りの見極めが非常に難しいということも、IFAが投資信託を購入する際の選択肢に入らない一つの理由なのかもしれません。このシリーズの中では、自分の目的に合ったIFAの探し方も説明していくつもりです。
最も大切なこと
皆さんの資産運用にとって一番大切なこと、それはゴールの設定です。もし「リスクを覚悟しても手っ取り早く儲けたい」ならば、経済や市場の予測を売り物にするIFAが向いているわけですが、もし「老後のお金を作りたい」や「退職金の資産寿命を延ばしたい」といったような年金目的の運用ならば、「長期・分散・積立」投資の継続にコーチング的手法を交えながらゴールまで付き添ってくれるようなIFAがベストな選択となります。年金目的の運用に、市場予測は不要だということを是非とも覚えておいてください。
要は、「目的(ゴール)」が決まると、その目的を達成するための最適「戦略」が決まるということです。今、日本の金融消費者にとっての最大の不幸は、例えば、「老後の資産を作りたい」というような年金目的の人が金融機関に行くと、相場観に基づく短期運用をさせられてしまうことです。つまり、ボタンの掛け違いが行われているのが日本の金融業界ということになります。宮坂さんが指摘され「投信販売の暗黒時代」から22年が経ちましたが、当時と何も変わっておりません。期待されていた銀行が証券会社と全く同じことをやっている現状を考えると、状況はさらに悪化しているのかもしれません。
上地ゼミ
最後に、現役引退の年齢を迎えた私が「上地ゼミ」というオンライン金融ビジネススクールを立ち上げました。その理由は、これまでの文章を読んでいただけた方には、大方の予想がついたのではないかと思います。一度、お立ち寄りいただけますと幸いです。
一般社団法人経済教育支援機構 代表理事 上地明徳
(「上地ゼミ」学長、信州大学経営大学院特任教授)
まとめ
- IFAとは、大雑把に言えば証券会社の代理店である。
- 資産運用にとって一番大切なことはゴールの設定である。
- 年金目的で運用するならば、「長期・分散・積立」投資の継続にコーチング的手法を交えながらゴールまで付き添ってくれるようなIFAに相談することがベストな選択となる。