KPMGジャパンは、2020年3月27日、「日本企業の統合報告に関する調査2019」を発行した。
2014年の調査開始から6回目となる今回の調査では、統合報告書の継続的な調査・分析に加え、有価証券報告書の記述情報についても調査を実施し、統合報告書における開示との比較を行った上で、それらに対するKPMGジャパンからの提言をまとめている。主な調査結果は、以下のとおり。
【調査結果のポイント】
日経平均株価※(以下、日経225)構成銘柄の78%、東証一部の時価総額66%にあたる企業が統合報告書を発行
2019年に統合報告書を発行した企業等513社のうち、日経225構成企業は175社だった。これは、日経225の全構成銘柄の78%にあたる。東証1部全体で見ても、統合報告書の発行企業の時価総額は66%を占めるまでとなった。KPMGジャパンでは、「統合報告書の発行そのものが進み、投資家等との対話においてより有用性の高い報告書の発行が期待される段階に移行してきたといえます」と述べている。
図表1 日経225構成銘柄における統合報告書発行企業の割合
図表2 東証一部上場企業における発行企業の割合
経営目線の議論の反映に課題
マテリアリティとは、ビジネスモデルとその成果に大きな影響を与え得る事象の「重要度」という意味合いを持つ。企業の価値創造ストーリーの土台となるマテリアリティの認識を、ビジネスモデルの持続性の観点で示しているのは、有価証券報告書では8%、統合報告書では28%にとどまり、そのうち、取締役が主体的にマテリアリティ評価に関わっていることがわかるのは、有価証券報告書では0%、統合報告書では21%と少数だった。KPMGジャパンは、「経営判断の核たる情報を、経営目線を反映したものとして示す点において課題があります」と述べている。
図表3 マテリアリティの記載
図表4 マテリアリティ評価プロセスにおける取締役の関与の説明
財務インパクトの大きい非財務情報の活用を
戦略の達成度の説明に用いられた指標の種類を調査したところ、財務指標のみを用いている有価証券報告書が66%であったのに対し、統合報告書は32%だった。一方で、財務・非財務の両方の指標を用いた有価証券報告書は15%、統合報告書は37%という結果だった。KPMGジャパンは、「経営成績を測る指標として財務的な成果が重視されるのは当然ではあるものの、財務成果に影響を与える非財務指標の動向を踏まえた説明には、いずれの報告書においても改善の余地があります」と分析している。
図表5 戦略の達成度の説明に用いられた業績指標
KPMGジャパンからの提言
KPMGジャパンは、これらを含む今回の調査結果をふまえ、投資家と企業の建設的な対話に資する統合的レポーティングを目指すための提言として、以下を挙げている。
1. ストーリーで伝える
経営者が価値創造ストーリーを伝えるために必要なピースとなる情報を揃え、情報の相互の繋がりを示すことに加え、適切な順序で説明することが大切。
2. 財務インパクトの大きい非財務情報を伝える
経営者は企業の目的達成に向けて、どのような事業環境の変化を見通し、その状況下で事業を継続させるために、何がクリティカルだと考えるのかを、マテリアリティとして説明すべき。その説明は、財務情報だけでなく、財務インパクトの大きいマテリアルな非財務情報によって補足されることが求められる。
3. どのような媒体でも、根底にあるストーリーは共有する
企業は多種多様な開示要請に応えるために、レポートごとに、その作成所管部署を分散しているケースが多く見受けられる。今こそ企業内連携を強化し、一貫したストーリーを共有した上で、それを発信する媒体ごとの役割や読み手に応じた工夫をすることが大切。
【調査概要】
<調査対象期間>
2019年1月~12月
<対象企業>
- 統合報告書の発行企業および統合報告書に関する基礎情報の調査:「自己表明型統合レポート」を発行する国内の企業等512社
- 統合報告書の領域別の記載状況に関する調査:日経225構成企業のうち統合報告書を発行する175社
- 統合報告書と有価証券報告書の記述情報の開示状況の比較調査:日経225構成企業225社
<調査方法>
調査メンバー全員で判断基準を定めた上で、企業ごとに1人の担当者が、統合報告書、有価証券報告書の両方を通読し、確認する方法で実施
<協力>
企業価値レポーティング・ラボ(「自己表明型統合レポート発行企業等リスト2019年版」提供)