世界最大級の資産運用会社であるリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は、 アクティブ・オーナーシップ・レポート2019年版を発表した。同社は、スチュワードシップに関する取り組みを引き続き強化し、 気候変動、 報酬、 ダイバーシティや取締役会におけるガバナンスを含むさまざまな課題について世界中の企業の取締役会への働きかけを積極化している。
2020年4月28日に発表された第9回目となるアクティブ・オーナーシップの年次レポートによると、 LGIMは企業と市場の健全な変化を長期的に実現するべく、 4,000名を超える取締役の選任への反対票を含め、 世界中での議決権行使を2019年も継続的に行った。
LGIMのインベストメント・スチュワードシップ担当ディレクターであるサシャ・サダン氏は次のように述べている。
この前例のない時において、 私たちは世界がいかに相互に結びついているかを思い知らされるとともに、 サステナビリティ、 優れたガバナンス、 そして従業員の公正な扱いがより良い未来を作り上げる基本であることをあらためて認識しています。 LGIMは、 引き続き企業を支援するとともにそのステークホルダーへの責任を追及し、 市場のスタンダードの向上を目指して毅然とした姿勢で規制当局との連携に臨み、 顧客や社会全体にとって重要な問題の解決が進展するよう協力を求めていきます。
強制力を持つスチュワードシップを通じた気候変動への取り組み
気候変動はLGIMが2019年を通じて企業への働きかけを最も多く行ったテーマ。 気候変動がもたらす危機に関して最も率直に発言する資産運用会社のひとつとして認識されているLGIMは[1]、 この1年間に気候変動への積極的な対策を求める株主提案について世界の他のどの大手資産運用会社よりも多くの支持票を投じ[2]、 さらに石油会社大手であるBPに対しては気候に係る株主提案の共同提案者ともなった。その議案は可決され、 LGIMによると、BPは業界をリードする排出目標を設定するに至った。
6月にはClimate Impact Pledgeエンゲージメントプログラムにて、 気候変動への取り組みにおいて先駆的な企業と遅れている企業のランキングを、 昨年に続き発表した。この第2回となるランキングには、取り組みの改善の余地が大きい企業として日本郵政とスバルを含む11社を挙げ、 議決権行使と投資行動によって働きかけた。このレポートではさらに、 成功事例やスチュワードシップを通じてプラスの転換を実践している企業を紹介しており、その中には2018年に特定のファンドから除外された後、 十分な対応が認められたとして2019年に再度投資対象となった2社も含まれている。
このLGIMによる取り組みを裏付けるものとして、責任投資の能力を検証した外部第三者による分析で、LGIMは世界全体で5社のみに与えられる「A」格付けを受けた。また、 インデックス投資を中心とする運用会社、世界最大手15社の運用会社、そして英国の運用会社、それぞれにおいて最高点を獲得した。 [3]
L&Gグループ全体として、気候変動への取り組みをさらに強化している。その例として、 LGIM Real Assetsが2050年までにそのすべての不動産資産についてカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出を実質ゼロにすること)の達成を誓約していることが挙げられる。 [4]
ファイナンシャル・インクルージョンの支援
LGIMは、企業の経営陣の報酬制度を改善し、投資先企業での収入の不公平さを解消する取り組みを進めている。2019年中は世界全体での報酬パッケージの35%に対して反対するとともに、継続している問題に対処しなかった報酬委員会の議長の選任または再任に反対票を投じた。また、社員と家族の暮らしの基本的ニーズを満たす生活を維持するために必要な最低限の賃金を保証する「生活賃金」の導入についても企業に継続的に働きかけてきた。
さらにLGIMは、 議決権行使ポリシーをより一層強化し、 新しく任命された経営陣の年金が従業員の年金からかけ離れている企業に対して反対票を投じていく。また経営陣に対し、 退任後2年間にわたりその企業の株式の相当数を保有し続けることを義務付けていない企業に対しても反対票を投じていく。
サシャ・サダン氏は以下のように続けている。
経営者が自社の株式を長期にわたり保有し続けるほど、 短期的な経営判断がなされるリスクは低くなります。 自社株式の保有を求めるLGIMの新しい原則はこの実現を目指したものであり、 経営陣とステークホルダーとの間の距離を縮めることを促すものでもあります。
良いガバナンスとダイバーシティの追求
長期的な価値創造の基盤として、 LGIMはガバナンスの改善を企業に強く働きかけている。2019年にLGIMは世界中で提出された取締役関連の議案のうち15%に反対票を投じており、これには以下のものが含まれている。
- オーバーボーディング(兼任数が多すぎること)を理由として、 776の取締役の選任議案に反対
- 独立性への懸念を理由として、 日本企業での530名の取締役選任と欧州企業での365の取締役選任議案に反対
- 会計監査人の継続監査期間が長過ぎるとして、 北米企業での199件の議案に反対
LGIMは長年にわたりCEOと取締役会議長との分離を提唱してきた。2020年1月には、 この2つの役職が同一人物により兼任されているすべての企業に反対票を投じると発表した(当面は日本企業を除く)。 なお、2019年はこの2つの職能の分離を求める米国での51件の株主決議案に支持票を投じ、また株主からの承認を事前に得ることなくこの2つの兼任を認めた40件の取締役会議案には反対票を投じた。
LGIMは企業の成功において視点とスキルの多様性がいかに重要かを長年にわたり主張してきた。2019年にもジェンダー・ダイバーシティのレベルが低い企業を対象とし、この問題へのグローバルな働きかけをさらに拡大した。
- この働きかけの後には、 51社の米国企業と12社の日本企業において改善が見られた。
- LGIMはダイバーシティの欠如を理由として、 英国の76名の取締役、 新興市場の41社の企業、 およびアジア太平洋地域の56名の取締役選任に対して反対票を投じた。
サシャ・サダン氏はさらに次のように述べている。
多様性に富んだ取締役会は、 困難な状況においては特に会社に疑問を投げ掛け、 会社を支える上で優れた機能を果たします。 また、 取締役は過度に多くの企業の取締役を兼任しないことで、 その役割の重大な責任に集中できるようにする必要があります。 さらに、 取締役会において適切なチェック・アンド・バランスが機能することも重要です。 そのためには、 CEOが取締役会議長を兼任するような、 自分で自分を統制する体制は避けなければなりません。
環境、 社会、 およびガバナンス(ESG)の投資への組み込みをさらに深化
スチュワードシップに関するLGIMの取り組みは、 投資活動全体におけるESGの重要性の拡大とともに歩んできた。 2019年にLGIMは顧客の資産とL&Gグループの資産について、責任ある投資を実践するための一体化された枠組を確立した。また独自のESGスコアの開発を継続し、ESGの観点を組み入れた14の新しいファンドを立ち上げるとともに、スコアの低い企業についてはさらなる働きかけを行った。 たとえば、 従業員やサプライヤーの不公正な扱いや透明性の欠如など、 社会とガバナンス分野でのスコアが低かった98社の取締役会議長に対し、改善のための建設的な提言を書状にて送った。
政策への働きかけを通じた業界の推進
LGIMは政策立案者との密接な協業を続けている。2019年には世界中の規制当局との約30のエンゲージメントに参加し、同時に他の投資家とも協力しながら必要に応じてLGIMの考えを公に表明してきた。英国内での会計監査とスチュワードシップの質的向上や日本と米国での投資家の権利保護から、EUでのサステナブルな資金調達やドイツでのコーポレート・ガバナンス・コードの改訂まで、LGIMはサステナブルな金融システム推進への取り組みの一環として政策への働きかけを強化している。
【重要な注意事項】
投資の価値とそれから得られる収益は保証されているものではなく、変動するおそれがあり、投資した元本を取り戻すことができない場合がある。特定の証券及び発行体への言及は、 LGIMが現在保有している、 またはLGIMポートフォリオ内で今後保有することを意味するものではなく、 例示のみを目的としている。 上記の情報は、 証券売買を推奨するものではない。
[1] 出典:The Guardian
[2] 出典:ShareAction
[3] 出典:ShareAction – Point of No Returns(2020)
[4] 気候に関するL&G Groupの詳細な取り組み→TCFDレポート