3月は27本の追加型株式投資信託が償還、このうち18本が繰上償還
投資信託協会によると、2021年3月に27本の追加型の株式投資信託が償還を迎えました。このうち18本ものファンドが設定された時点で定められていた信託期間(運用期間)を満了せずに信託期間を繰上げて償還されたものです。満期償還はわずか6本、残りの3本は、ファンドの基準価額が一定額に上昇した、あるいは下落した場合に、安定運用に切り替えてファンドを償還させるという繰上償還条項が付いていたファンドで、その条件を満たした為に償還されたものです。
繰上償還の理由
2021年3月に繰上償還されたファンド(18本)は全て、残高の減少により当初定めた運用方針に則った運用を継続することが困難になったために償還されました。投資信託は、10億口や20億口など一定の受益権口数を下回った場合に、繰上償還ができると約款で定められており、それを根拠に繰上償還が実施されたわけです。
繰上償還の影響
投資信託の繰上償還は、投資家にとっては投資リスクの一つです。
繰上償還時に、保有している投資信託に評価損失が生じていた場合、償還時点で投資家の損失は確定されることになります。基準価額が回復することを期待して保有していた投資家も損失を確定し、現金化せざるを得なくなります。一方、償還時に利益が出ていた場合は、利益を確定して通常は税金を支払うことになります。
さらに、繰上償還が投資家にとって大きな問題となるのは、資産計画を見直さざるをえなくなるということです。時間をかけて選んだ投資信託が、想定していた運用期間途中で運用終了されてしまうため、老後や子供の教育資金を目的とした資金計画をやり直す必要が生じてしまいます。
この繰上償還リスクを回避するためには、投資信託を購入する前に、次の点を確認することが大切です。
- 運用残高(純資産総額)が十分大きいこと
- 運用残高が減少傾向にないこと
なお、投資信託協会のデータによると、ETFを除いた追加型株式投資信託の1本当たりの平均残高は約129億円です(2021年1月末現在)。一方で、純資産総額(残高)が500億円を超える投資信託は296本(2021年1月末現在)存在しています。少なくとも残高が平均以上あり、その残高が増加傾向にある投資信託を選択すべきです。
また、テーマ型ファンドでは、流行に乗って設定時には大きな金額が集まり運用が開始されても、数年後にはそのテーマが時代に合わなくなり運用残高が急速に減少してしまうことがあります。投資信託は長期運用が前提ですので、テーマ型ファンドを選ぶ際には、そのテーマが長期的に通用するものかどうかを慎重に検討することが大切です。
1口当たり償還額
2021年3月に償還した投資信託27本の1口当り償還額(A)を見ると、設定時の基準価額である10,000円を上回る金額で償還したのは12本だけでした。
1口当り償還額が最も高かったのは、三井住友DSアセットマネジメント株式会社の「三井住友・メインランド・チャイナ・オープン」で、1口当り償還額は24,648.73円でした。同ファンドは、2004年7月に設定されましたが、2021年3月に残高の減少を理由に繰上償還されました。
一方で、1口当り償還額が最も低かったのは、BNPパリバ・アセットマネジメント株式会社の「北欧ハイイールド債券オープン 為替プレミアムコース」で、1口当り償還額は4,117.7円でした。同ファンドは、2014年9月に設定され、2021年3月に残高の減少を理由に繰上償還されました。
1口当たり償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額
1口当り償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額で見ると、この合計額(A+B)が10,000円を下回ったファンドが9本ありました。つまり、これら9本のファンドを設定時に購入し、償還まで保有した人のトータル・リターンはマイナスだったことになります。
1口当り償還額と期中分配金の合計額が最も高かったのも、「三井住友・メインランド・チャイナ・オープン」で、合計額は32,248.73円(1口当り償還額24,648.73円+分配金7,600円)でした。
一方、1口当たり償還額と期中分配金の合計額が最も低かったのは、日興アセットマネジメント株式会社の「資源ファンド(株式と通貨)ブラジルレアル・コース(資産成長型)」で、合計額は5,776.69円(1口当たり償還額5,776.69円+分配金0円)でした。同ファンドも、運用残高の減少を理由に繰上償還されました。
運用期間
2021年3月に償還した投資信託の運用期間を見ると、運用期間が最も長かったのは、2000年4月に設定された「明治安田日本株式リサーチオープン」でした。同ファンドも投資信託約款に定められた受益権の口数(20憶口)を下回る状態が長期間継続していることを理由に繰上償還されました。
一方、運用期間が最も短かったのは、2017年2月に運用が開始された「日本好配当リバランスファンド17-02(繰上償還条項付)」でした。同ファンドは、分配金込基準価額が1万口当たり12,129円(基準価額12,129円、設定来分配金累計0円)となり、投資信託約款「投資信託契約の解約」の条文に規定する条件を満たしたため繰上償還されました。
投資信託の信託期間は5年、10年というものから無期限のものまであります。老後資金の確保のように長い期間をかけた資産形成を目的としている場合は、より長期での運用が可能な信託期間が「無期限」とされているものを選択する方が良いでしょう。実際に、確定拠出年金の対象になっている投資信託は全て信託期間が無期限となっています。
2021年3月に償還した追加型株式投資信託一覧
運用会社 | ファンド名 | 償還日 | 償還時純資産総額(百万円) | 償還時1口当たり償還額(A) | 期中分配金(円)(B) | 合計(A)+(B) | 満期・繰上 |
野村 | 野村日本スマートシティ株投資 | 23日 | 2,325 | 19,124.26 | 2,180.00 | 21,304.26 | 満期 |
野村 | ノムラ THE EUROPE Aコース | 29日 | 412 | 19,178.55 | 140.00 | 19,318.55 | 繰上 |
野村 | ノムラ THE EUROPE Bコース | 29日 | 682 | 18,586.19 | 140.00 | 18,726.19 | 繰上 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)ブラジルレアル・コース(資産成長型) | 30日 | 18 | 5,776.69 | 0.00 | 5,776.69 | 繰上 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)南アフリカランド・コース(資産成長型) | 30日 | 36 | 8,420.18 | 0.00 | 8,420.18 | 繰上 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)米ドル・コース(資産成長型) | 30日 | 29 | 9,110.25 | 0.00 | 9,110.25 | 繰上 |
大和 | ダイワ拡大成長株ファンド | 10日 | 2,672 | 11,302.78 | 2,460.00 | 13,762.78 | 満期 |
大和 | 為替ヘッジ付米国国債プラス日本株式ファンド | 26日 | 95 | 10,714.74 | 0.00 | 10,714.74 | 満期 |
岡三 | 日本好配当リバランスファンド17-02(繰上償還条項付) | 29日 | 245 | 12,278.22 | 0.00 | 12,278.22 | 条件 |
明治安田 | 明治安田日本株式リサーチオープン | 24日 | 259 | 12,465.02 | 160.00 | 12,625.02 | 繰上 |
JPモルガン | JPMグローバル高利回りCBファンド(限定追加型・早期償還条項付)2016-04 | 5日 | 3,261 | 11,545.86 | 0.00 | 11,545.86 | 条件 |
JPモルガン | グロ-バルCBファンド(繰上償還条項付/下値目安設定型) | 17日 | 665 | 8,714.38 | 0.00 | 8,714.38 | 条件 |
三菱UFJ | 国際 メキシコ・ペソ債券オープン(毎月決算型) | 25日 | 176 | 5,257.28 | 6,915.00 | 12,172.28 | 満期 |
SOMPO | ライジング・トルコ株式ファンド | 3日 | 463 | 5,434.34 | 1,450.00 | 6,884.34 | 満期 |
SOMPO | UBPトルコ株式ファンド | 3日 | 118 | 5,858.32 | 4,750.00 | 10,608.32 | 満期 |
One | 米国バランスファンド(毎月決算型)Aコース(為替ヘッジあり) | 12日 | 125 | 8,912.95 | 1,250.00 | 10,162.95 | 繰上 |
One | 米国バランスファンド(毎月決算型)Bコース(為替ヘッジなし) | 12日 | 124 | 8,900.84 | 1,040.00 | 9,940.84 | 繰上 |
One | 海外物価連動国債ファンド(為替ヘッジなし) | 22日 | 419 | 9,683.32 | 4,704.00 | 14,387.32 | 繰上 |
One | 海外物価連動国債ファンド(為替ヘッジあり) | 22日 | 51 | 9,598.95 | 2,877.00 | 12,475.95 | 繰上 |
レッグ・メイソン | LM・オーストラリア・インカム・アロケーション・ファンド(毎月分配型) | 25日 | 120 | 10,252.66 | 1,200.00 | 11,452.66 | 繰上 |
レッグ・メイソン | LM・オーストラリア・インカム・アロケーション・ファンド(年2回決算型) | 25日 | 124 | 11,579.99 | 0.00 | 11,579.99 | 繰上 |
BNPパリバ | 北欧ハイイールド債券オープン 為替ヘッジありコース | 15日 | 214 | 5,002.74 | 3,150.00 | 8,152.74 | 繰上 |
BNPパリバ | 北欧ハイイールド債券オープン 為替ヘッジなしコース | 15日 | 124 | 4,335.38 | 2,870.00 | 7,205.38 | 繰上 |
BNPパリバ | 北欧ハイイールド債券オープン 為替プレミアムコース | 15日 | 342 | 4,117.70 | 2,815.00 | 6,932.70 | 繰上 |
あいグローバル | 世界優先株オープン(為替ヘッジあり) | 15日 | 95 | 9,172.84 | 1,140.00 | 10,312.84 | 繰上 |
三井住友DS | 新世代自動車株式ファンド | 19日 | 360 | 12,300.04 | 7,600.00 | 19,900.04 | 繰上 |
三井住友DS | 三井住友・メインランド・チャイナ・オープン | 22日 | 103 | 24,648.73 | 7,600.00 | 32,248.73 | 繰上 |
(データ等出所:投資信託協会、EDINET、各ファンドの有価証券届出書・臨時報告書)