4月は41本の追加型株式投資信託が償還、このうち23本が繰上償還
投資信託協会によると、2021年4月に41本の追加型の株式投資信託が償還を迎えました。
このうち半数以上の23本ものファンドが設定された時点で定められていた信託期間(運用期間)を満了せずに信託期間を繰り上げて償還されたものでした。満期償還はわずか17本、残りの1本は、ファンドの基準価額が一定額に上昇した場合に、安定運用に切り替えてファンドを償還させるという繰上償還条項が付いていたファンドで、その条件を満たしたために償還されたものです。
繰上償還の理由
2021年4月に繰上償還されたファンド(23本)のうち18本は、残高の減少により当初定めた運用方針に則った運用を継続することが困難になったために償還されたものです。投資信託は、10億口や20億口など一定の受益権口数を下回った場合に、繰上償還ができると約款で定められており、それを根拠に繰上償還が実施されたわけです。
なお、このうち1本は東京証券取引所に上場していたETFの「MAXIS S&P三菱系企業群上場投信」で、同ファンドは純資産総額の減少により、対象インデックスへの連動を維持した運用が困難になったために繰上償還され、その後、上場廃止になっています。
また、あおぞら投信の「あおぞら・新グローバル分散ファンド(限定追加型)2017-02」は、基準価額が11,500円に到達したのち、安定運用に切り替え、2021年12月に償還を迎えるという運用方針のファンドでしたが、2021年2月17日に基準価額が11,500円に到達し、運用方針に基づき安定的な債券運用に切り替え運用を行っていたものの、受益権の総口数が投資信託約款の繰上償還に関する規定である10億口を下回る状態に加え、債券市場の環境がファンド設定時から変動しており、本来の運用目標を達成することが困難となる可能性があるということで、2021年12月の償還を前倒して償還されたものです。
残りの5本のファンドについては、次の理由により繰上償還されました。
- 全ファンドの換金請求があったため(2本)
- ファンド・オブ・ファンズにおいて、投資先ファンドの運用チームが解散されることになったため
- ファンド・オブ・ファンズにおいて、投資先ファンドの繰上償還が決定されたため
- ライフ・サイクル・ファンドにおいて、安定運用期間に入ったものの、マイナス金利環境において信託財産が減少する可能性があるため、運用を継続するより、信託財産を返還する方が、受益者にとって有利であると判断したため
繰上償還の影響
投資信託の繰上償還は、投資家にとっては投資リスクの一つです。
繰上償還時に、保有している投資信託に評価損失が生じていた場合、償還時点で投資家の損失は確定されることになります。基準価額が回復することを期待して保有していた投資家も損失を確定し、現金化せざるを得なくなります。一方、償還時に利益が出ていた場合は、利益を確定して通常は税金を支払うことになります。
さらに、繰上償還が投資家にとって大きな問題となるのは、資産計画を見直さざるをえなくなるということです。時間をかけて選んだ投資信託が、想定していた運用期間途中で運用終了されてしまうため、老後や子供の教育資金を目的とした資金計画をやり直す必要が生じてしまいます。
この繰上償還リスクを回避するためには、投資信託を購入する前に、次の点を確認することが大切です。
- 運用残高(純資産総額)が十分大きいこと
- 運用残高が減少傾向にないこと
なお、投資信託協会のデータによると、ETFを除いた追加型株式投資信託の1本当たりの平均残高は約129億円です(2021年1月末現在)。一方で、純資産総額(残高)が500億円を超える投資信託は296本(2021年1月末現在)存在しています。少なくとも残高が平均以上あり、その残高が増加傾向にある投資信託を選択すべきです。
また、テーマ型ファンドでは、流行に乗って設定時には大きな金額が集まり運用が開始されても、数年後にはそのテーマが時代に合わなくなり運用残高が急速に減少してしまうことがあります。投資信託は長期運用が前提ですので、テーマ型ファンドを選ぶ際には、そのテーマが長期的に通用するものかどうかを慎重に検討することが大切です。
毎月多くの新しい投資信託が設定される一方で、多くの投資信託が繰上償還されている状況について、投資信託業界は改善のための対策を検討すべきです。投資信託を設定したら、当初の約束通りきちんと最後まで運用することが運用会社の最低限の責務であるはずです。顧客本位の業務運営についての原則において、繰上償還を行わないという方針を打ち出す運用会社が出てくることを期待したいものです。
1口当たり償還額
2021年4月に償還した41本の投資信託の1口当り償還額(A)を見ると、設定時の基準価額である10,000円を上回る金額で償還したのは22本だけでした。
1口当り償還額が最も高かったのは、三井住友DSアセットマネジメント株式会社の「チャイナ・フロンティアオープン」で、1口当り償還額は31,334.9円でした。同ファンドは、2002年1月に設定され、20年近く運用されてきましたが、残高の減少を理由に2021年4月に繰上償還されました。
一方で、1口当り償還額が最も低かったのは、日興アセットマネジメント株式会社の「資源ファンド(株式と通貨)トルコリラ・コース」で、1口当り償還額は2,038.4円でした。同ファンドも、運用残高の減少を理由に繰上償還されました。
1口当たり償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額
1口当り償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額(トータル・リターン)で見ると、この合計額(A+B)が10,000円を下回ったファンドが10本ありました。つまり、これら10本のファンドを設定時に購入し、償還まで保有した人のトータル・リターンはマイナスだったことになります。
1口当り償還額と期中分配金の合計額が最も高かったのも、「チャイナ・フロンティアオープン」で、合計額は39,865.9円(1口当り償還額31,334.9円+分配金8,531円)でした。
一方、1口当たり償還額と期中分配金の合計額が最も低かったのは、日興アセットマネジメント株式会社の「資源ファンド(株式と通貨)トルコリラ・コース」で、合計額は6,463.4円(1口当たり償還額2,038.4円+分配金4,425円)でした。
運用期間
2021年3月に償還した投資信託の運用期間を見ると、運用期間が最も長かったのは、2000年7月に設定された「MHAMライフ ナビゲーション 2020」でした。同ファンドはライフ・サイクル・ファンドで、2020年7月1日以降は安定運用が開始されましたが、国内の低金利環境が継続するなか、短期公社債と短期金融商品を主要投資対象とする運用によって期待される収益が、設定時点の想定を大きく下回っており、今後もマイナス金利環境が長期間継続する場合には、信託財産が減少する可能性もあるということを理由に、運用会社であるアセットマネジメントOne株式会社は、運用をこのまま継続するよりも、信託財産を返還する方が、受益者(投資家)にとって有利であると判断したため、繰上償還されました。
一方、運用期間が最も短かったのは、2018年2月に運用が開始された「パインブリッジ米国ライジングスター好利回り債券ファンド2018-02(限定追加型・為替ヘッジあり・早期償還条項付)」でした。同ファンドは、分配金込基準価額が1万口当たり2021年2月26日の基準価額(支払済の収益分配金を含む)が11,067円となり、繰上償還を行う条件(2021年2月26日以降に基準価額(支払済の収益分配金を含む)が11,000円以上に到達)を満たして償還されたものです。
投資信託の信託期間は5年、10年というものから無期限のものまであります。老後資金の確保のように長い期間をかけた資産形成を目的としている場合は、より長期での運用が可能な信託期間が「無期限」とされているものを選択する方が良いでしょう。実際に、確定拠出年金の対象になっている投資信託は全て信託期間が無期限となっています。
【2021年4月に償還した追加型株式投資信託】
運用会社 | ファンド名 | 償還日 | 償還時純資産総額(百万円) | 償還時1口当たり償還額(A) | 期中分配金(円)(B) | 合計(A)+(B) | 満期・繰上 |
野村 | グローバル・コーポレート・ハイブリッド証券ファンド(為替ヘッジあり)2017-02(限定追加型) | 15日 | 1,202 | 10,065.63 | 420.00 | 10,485.63 | 満期 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)円コース | 28日 | 26 | 6,727.11 | 1,080.00 | 7,807.11 | 繰上 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)メキシコペソ・コース | 28日 | 9 | 3,352.05 | 3,980.00 | 7,332.05 | 繰上 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)トルコリラ・コース | 28日 | 42 | 2,038.40 | 4,425.00 | 6,463.40 | 繰上 |
日興 | 資源ファンド(株式と通貨)米ドル・コース | 28日 | 37 | 5,673.35 | 3,466.00 | 9,139.35 | 繰上 |
大和 | ダイワ/モルガン・スタンレー世界新興国株ファンド | 16日 | 7,657 | 13,585.67 | 2,000.00 | 15,585.67 | 満期 |
大和 | エマージング好配当株ファンド -予想分配金提示型- | 26日 | 246 | 12,000.53 | 5,150.00 | 17,150.53 | 満期 |
大和 | ダイワ・ニッポン応援ファンドVol.3 -フェニックスジャパン- | 26日 | 2,072 | 18,092.37 | 5,400.00 | 23,492.37 | 満期 |
大和 |
エマージング好配当株式オープン
|
26日 | 30 | 11,816.35 | 1,170.00 | 12,986.35 | 繰上 |
明治安田 | 明治安田外債日本株ファンド | 9日 | 475 | 10,601.26 | 2,400.00 | 13,001.26 | 繰上 |
ニッセイ | ニッセイ世界代表株ファンド | 20日 | 767 | 13,764.05 | 2,400.00 | 16,164.05 | 満期 |
パインブリッジ | パインブリッジ米国ライジングスター好利回り債券ファンド2018-02(限定追加型・為替ヘッジあり・早期償還条項付) | 2日 | 2,638 | 10,522.45 | 480.00 | 11,002.45 | 条件 |
パインブリッジ | パインブリッジ日本企業外貨建て社債ファンド 2016-07 | 28日 | 2,525 | 9,946.92 | 90.00 | 10,036.92 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテグローバルインカム株式通貨選択<円>(毎月) | 19日 | 460 | 7,653.16 | 4,560.00 | 12,213.16 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテグローバルインカム株式通貨選択<豪ドル>(毎月) | 19日 | 490 | 6,239.06 | 6,670.00 | 12,909.06 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテグローバルインカム株式通貨選択<ブラジル>(毎月) | 19日 | 648 | 2,285.99 | 7,825.00 | 10,110.99 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテグローバルインカム株式通貨選択<資源国>(毎月) | 19日 | 194 | 3,769.83 | 7,515.00 | 11,284.83 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテグローバルインカム株式通貨選択<マネープール> | 19日 | 1 | 10,010.33 | 0.00 | 10,010.33 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテ・グローバル・インカム株式オープン 通貨選択シリーズ<米ドルコース>(毎月分配型) | 19日 | 224 | 8,059.52 | 7,190.00 | 15,249.52 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテ・グローバル・インカム株式オープン 通貨選択シリーズ<メキシコペソコース>(毎月分配型) | 19日 | 64 | 6,168.09 | 5,970.00 | 12,138.09 | 満期 |
三菱UFJ国際 | ピクテ・グローバル・インカム株式オープン 通貨選択シリーズ<トルコリラコース>(毎月分配型) | 19日 | 19 | 4,062.89 | 5,495.00 | 9,557.89 | 満期 |
三菱UFJ国際 | MAXIS S&P三菱系企業群上場投信 | 20日 | 274 | 14,321.78 | 3,057.00 | 17,378.78 | 繰上 |
ピクテ | ピクテ新興国高配当株式低ボラティリティ戦略ファンド(毎月決算型) | 20日 | 196 | 4,617.73 | 3,500.00 | 8,117.73 | 繰上 |
ピクテ | ピクテ新興国高配当株式低ボラティリティ戦略ファンド(1年決算型) | 20日 | 119 | 8,114.11 | 0.00 | 8,114.11 | 繰上 |
AM One | 新興国中小型株ファンド | 13日 | 855 | 10,871.58 | 6,500.00 | 17,371.58 | 満期 |
AM One | MHAM海外好配当株ファンド | 20日 | 622 | 9,835.30 | 9,815.00 | 19,650.30 | 繰上 |
AM One | MHAMライフ ナビゲーション2020 | 26日 | 4 | 10,829.40 | 1,045.00 | 11,874.40 | 繰上 |
三井住友トラスト | 欧州REIT・リサーチ・オープン(毎月決算型) | 12日 | 1,479 | 7,580.07 | 2,160.00 | 9,740.07 | 繰上 |
三井住友トラスト | USインフラ株式ファンド 為替ヘッジあり(年2回決算型) | 12日 | 257 | 11,983.91 | 0.00 | 11,983.91 | 繰上 |
三井住友トラスト | USインフラ株式ファンド 為替ヘッジなし(年2回決算型) | 12日 | 1 | 12,631.14 | 0.00 | 12,631.14 | 繰上 |
三井住友DS | 米国小型株ツインα(資産成長型) | 2日 | 195 | 16,793.52 | 40.00 | 16,833.52 | 繰上 |
三井住友DS | 日興フィデリティ世界企業債券ファンド(為替ヘッジあり) | 6日 | 696 | 10,286.93 | 865.00 | 11,151.93 | 繰上 |
三井住友DS | 日興フィデリティ世界企業債券ファンド(為替ヘッジなし) | 6日 | 577 | 9,852.14 | 800.00 | 10,652.14 | 繰上 |
三井住友DS | ヘルスケア・リート・プラス | 16日 | 238 | 10,750.09 | 1,607.00 | 12,357.09 | 繰上 |
三井住友DS | M&Aフォーカス・ファンド | 20日 | 1,805 | 12,456.42 | 3,750.00 | 16,206.42 | 満期 |
三井住友DS | チャイナ・フロンティアオープン | 23日 | 288 | 31,334.90 | 8,531.00 | 39,865.90 | 繰上 |
三井住友DS | ニュー・グローバル・バランス・ファンド | 28日 | 577 | 10,331.29 | 3,865.00 | 14,196.29 | 繰上 |
三井住友DS | 7-10年カナダ国債ラダー・ファンド-メープル7-(為替ヘッジあり) | 28日 | 1 | 9,009.27 | 330.00 | 9,339.27 | 繰上 |
三井住友DS | 7-10年カナダ国債ラダー・ファンド-メープル7-(為替ヘッジなし) | 28日 | 1 | 9,565.66 | 275.00 | 9,840.66 | 繰上 |
BNYメロン | BNYメロン・グローバル好利回りCBファンド2016-04(円ヘッジ)(限定追加型) | 20日 | 1,295 | 10,561.97 | 0.00 | 10,561.97 | 満期 |
あおぞら | あおぞら・新グローバル分散ファンド(限定追加型)2017-02 | 30日 | 9 | 11,491.09 | 0.00 | 11,491.09 | 繰上 |
(データ等出所:投資信託協会、EDINET、各ファンドの有価証券届出書・臨時報告書)