ソーシャルボンド #
ソーシャルボンドとは、社会的課題に取り組むプロジェクト(ソーシャルプロジェクト)の資金を調達するために発行される債券のことです。
社会的課題の解決のために発行される債券であれば、全てがソーシャルボンドと呼ばれるかというとそうではありません。金融の世界では、ICMA(国際資本市場協会)が定めたソーシャルボンドの定義とソーシャルボンド原則に則って発行され、第三者評価機関によって、ソーシャルボンド原則の4つの要素に適合していることが確認されたものをソーシャルボンドと呼びます。
ICMAはInternational Capital Market Associationの略称で、スイスに本部を置く国際債券市場に携わる関係者の自主規制団体で、世界約60カ国以上の発行体、発行市場・流通市場取引仲介業者、アセット・マネージャー、投資家、資本市場インフラ運営者等600以上の会員を擁しています。(2024年8月現在)
ソーシャルボンドの定義 #
ICMAでは、ソーシャルボンドを次のように定義しています。
ソーシャルボンドとは、調達資金の全てが、新規又は既存の適格なソーシャルプロジェクトの一部又は全部の初期投資又はリファイナンスのみに充当され、かつ、ソーシャルボンド原則の4つの核となる要素に適合している様々な種類の債券である。
ソーシャルボンド原則 #
ソーシャルボンド原則とは、ソーシャルボンド市場の秩序ある発展を促進することを目的として、ICMAによって制定された、自主的な手続きに関するガイドラインで、次の4つの核となる要素で構成されています。
- 調達資金の使途
- プロジェクトの評価と選定のプロセス
- 調達資金の管理
- レポーティング
1. 調達資金の使途について #
ソーシャルボンドにおいて肝要なのは、調達資金がソーシャルプロジェクトのために使われることであり、そのことは、証券に係る法的書類に適切に記載されるべきである。調達資金使途先となる全てのソーシャルプロジェクトは明確な社会的便益を有すべきであり、その効果は発行体によって評価され、可能な場合は、定量的に示されるべきである。
ここでいう社会的課題を解決するためのソーシャルプロジェクトの事業区分には次のようなものが含まれます。
- 手ごろな価格の基本的インフラ設備(例:クリーンな飲料水、下水道、衛生設備、輸送機関、エネルギー)
- 必要不可欠なサービスへのアクセス(例: 健康、教育及び職業訓練、健康管理、資金 調達と金融サービス)
- 手ごろな価格の住宅
- 中小企業向け資金供給及びマイクロファイナンスによる潜在的効果を通じた雇用創出
- 食糧の安全保障
- 社会経済的向上とエンパワーメント
また、ソーシャルプロジェクトが対象としている人としては次が挙げられています。
- 貧困ライン以下で暮らしている人々
- 排除され、あるいは社会から取り残されている人々、あるいはコミュニティ
- 自然災害の罹災者を含む弱者グループ
- 障害者
- 移民や難民
- 十分な教育を受けていない人々
- 十分な行政サービスを受けられない人々
- 失業者
2. プロジェクトの評価と選定のプロセス #
ソーシャルボンドの発行体は、以下の点を投資家に対して明確に伝えることが求められています。
- 社会的な目標
- 発行体が対象となるプロジェクトが前述の適格なソーシャルプロジェクトの事業区分に含まれると判断するプロセス
- 関連する適格性についてのクライテリア(プロジェクトが有する潜在的に重大な社会的、環境的リスクを特定し、制御するために適用される排除クライテリアやその他のプロセスを含む)
3. 調達資金の管理 #
ソーシャルボンドによって調達される資金に係る手取金の全部、あるいは手取金と同等の金額は、サブアカウントで管理されるか、サブポートフォロリオに組み入れられるか、又はその他の適切な方法のいずれかにより追跡されるべきである。
4. レポーティング #
発行体は、資金使途に関する最新の情報を容易に入手可能な形で開示し、それを続けるべきであり、また、その情報は全ての調達資金が充当されるまで年に一度は更新し、かつ重要な事象が生じた場合は随時開示し続けるべきである。
ソーシャルボンド原則の全文(英語版・日本語版)はICMAのホームページhttps://www.icmagroup.orgで入手できます。
ソーシャルボンドの外部評価 #
ソーシャルボンド原則では、ソーシャルボンドの発行体は、ソーシャルボンドの発行又はソーシャルボンド発行プログラムに関連して、発行する債券がソーシャルボンド原則の4つの要素に適合していることを確認するために、外部評価を付与する機関を任命することが推奨されています。日本では、株式会社格付投資情報センターや株式会社日本格付研究所などが外部評価機関として、ソーシャルボンドがソーシャルボンド原則の4つの原則に適合しているかどうかの評価を行なっています。
ソーシャルボンドの種類 #
ICMAによると、ソーシャルボンドには次の4つの種類があります。(2020年7月現在)
①Standard Social Use of Proceeds Bond(標準的ソーシャルボンド)
ソーシャルボンド原則に適合する発行体への遡及性を有する標準的な債券。
②Social Revenue Bond(ソーシャルレベニュー債)
発行体への遡及性を有しないソーシャルボンド原則に適合する債券で、債券の信用の源泉は、対象となるソーシャルプロジェクトからの事業収入や使用量、税金などの将来に見込まれるキャッシュフローであり、債券により調達された資金の使途は、信用の源泉との関係の有無を問わないソーシャルプロジェクトとなる。
③Social Project Bond(ソーシャルプロジェクト債)
一つ又は複数のソーシャルプロジェクトに係るソーシャルボンド原則に適合するプロジェクトボンドで、発行体への潜在的な遡及性の有無に関わらず、投資家は当該プロジェクトのリスクに直接晒される。
④Secured Social Bond(担保付ソーシャルボンド):調達資金が次のいずれかのソーシャルプロジェクトに係る資金調達又はリファイナンスのためにのみ充当される担保付債券。
(1)特定の債券のみの裏付けとなるソーシャル・プロジェクト(「担保付ソーシャル・コラテラル債」)
(2)発行体、オリジネーター又はスポンサーのソーシャル・プロジェクト。
(出所:ソーシャルボンド原則 2023、ソーシャルボンド発行に関する自主的ガイドライン 2023年6月)
日本企業が発行したソーシャルボンドの例 #
ICMAによると、2024年8月末までに、次の日本法人がソーシャルボンドを発行しています。投資信託に関係するところでは、不動産投資信託のヘルスケア&メディカル投資法人、大和証券リビング投資法人、産業ファンド投資法人、ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人が発行しています。
企業名 | 発行額(10億ドル) | 評価会社 | 直近の外部評価機関によるレビュー |
---|---|---|---|
アイフル | 0.11bn | 日本格付研究所 | March 2023 |
アルフレッサ ホールディングス | 0.14bn | R&I | November 2023 |
ANA ホールディングス | 0.05bn | 日本格付研究所 | April 2019 |
中部国際空港 | 0.20bn | R&I | February 2022 |
中日本高速道路 | 0.80bn | 日本格付研究所 | February 2024 |
中国銀行 | 0.10bn | R&I | August 2020 |
クレディ・セゾン | 0.07bn | R&I | February 2022 |
大和証券リビング投資法人 | 0.02bn | 日本格付研究所 | May 2021 |
東日本高速道路 | 14.63bn | R&I | July 2022 |
富士フィルムホールディングス | 0.94bn | DNV GL | March 2022 |
学研ホールディングス | 0.06bn | 日本格付研究所 | March 2020 |
H.U.グループホールディングス | 0.18bn | R&I | July 2019 |
阪神高速道路 | 1.15bn | R&I | July 2023 |
ヘルスケア&メディカル投資法人 | 0.02bn | 日本格付研究所 | January 2020 |
光通信 | 0.13bn | R&I | February 2024 |
産業ファンド投資法人 | 0.05bn | 日本格付研究所 | August 2021 |
独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構 | 16.81bn | R&I | March 2022 |
国際協力機構 | 3.09bn | Other | June 2021 |
日本学生支援機構 | 1.66bn | 日本格付研究所 | April 2023 |
カネカ | 0.07bn | R&I | November 2023 |
ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人 | 0.03bn | 日本格付研究所 | November 2019 |
キリンホールディングス | 0.55bn | DNV GL | December 2022 |
マクロミル | 0.06bn | R&I | June 2024 |
丸井グループ | 0.01bn | Sustainalytics | March 2022 |
首都高速道路 | 0.77bn | R&I | June 2022 |
三菱UFJフィナンシャル・グループ | 0.09bn | Sustainalytics | October 2019 |
名古屋高速道路公社 | 1.01bn | Other | October 2023 |
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構 | 0.25bn | 日本格付研究所 | February 2024 |
新関西国際空港 | 0.55bn | R&I | June 2022 |
ニプロ | 0.82bn | R&I | September 2021 |
オリエントコーポレーション | 0.09bn | 日本格付研究所 | July 2020 |
大阪府住宅供給公社 | 0.15bn | R&I | May 2024 |
サワイグループホールディングス | 0.06bn | R&I | April 2024 |
SOMPOホールディングス | 0.52bn | 日本格付研究所 | March 2023 |
東京都 | 1.54bn | R&I | May 2023 |
東京都住宅供給公社 | 0.55bn | R&I | July 2023 |
東洋紡 | 0.09bn | R&I | November 2021 |
東京大学 | 0.28bn | 日本格付研究所 | December 2021 |
独立行政法人都市再生機構 | 2.09bn | R&I | March 2023 |
福祉医療機構 | 0.44bn | R&I | December 2021 |
西日本高速道路 | 10.89bn | R&I | June 2021 |
(出所:ICMA https://www.icmagroup.org)