政治的リスク #
投資を行う際には、金利や為替といった経済的なリスクだけでなく、投資対象国の政治的リスクも考慮することが大切です。
政治的リスクとは、特定の国の政情不安や政治の混乱、重大な政策の失敗、紛争などの政治的要因により、株式や債券などの資産価値が下落したり、為替相場が暴落したりするリスクを指します。また、政治的要因による金融市場の混乱から、資本・為替取引が制限され、その結果として経済が低迷するリスクも政治的リスクです。政治的リスクはポリティカル・リスク(political risk)と呼ばれることもあります。
政治的リスクの例
- 政府の政策変更: 規制の変更や税制の改定が企業の利益に影響を与える。
- 国有化や没収: 政府が外国企業の資産を没収したり、国有化したりするリスク。
- 政治的不安定: クーデター、反政府デモ、政権交代などによる不安定化。
- 貿易制限や制裁: 特定の国や産業に対する貿易制限や制裁が課される可能性。
政治的リスクの影響 #
政治の混乱により金融市場が大きく下落したり、為替が暴落したり、より大きな混乱に繋がった場合には、金融市場が閉鎖されて、株式、債券、為替などの取引ができなくなる可能性もあります。そうなると、当然、投資信託の基準価額には大きな影響が出ます。
トルコの例 #
例えば、2018年に高インフレと金融政策の失敗が続く中、米国との関係悪化、国内の政治の不透明感などによりトルコ・リラが大きく下落しました。この通貨安を受け、トルコに投資している投資信託の多くの基準価額(資産価値)が大幅に下落しました。
<2018年時点でトルコを投資対象としていた投資信託の過去1年の騰落率>
ファンド名 | 過去1年騰落率 (分配金込み) |
---|---|
オ-ロラII トルコ投資ファンド | -48.57% |
トルコ債券オープン(毎月決算型)為替ヘッジなし | -49.59% |
トルコ債券オープン(毎月決算型)為替アクティブヘッジ | -42.27% |
ライジング・トルコ株式ファンド | -48.57% |
Navio トルコ債券ファンド | -52.96% |
トルコ・ボンド・オープン(毎月決算型) | -49.77% |
トルコ株式オープン | -47.91% |
UBPトルコ株式ファンド | -48.04% |
新光トルコ・リラ債券ファンド(毎月決算型) | -44.45% |
HSBC トルコ株式オープン | -32.24% |
ロシアの例 #
また、東京証券取引所に上場しているロシアに投資するETF「NEXT FUNDS ロシア株式指数連動型上場投信」(銘柄コード:1324)は、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を受け、世界各国の制裁措置等によりロシア株式の取引を行うことが困難となり、東京証券取引所での売買が停止されました。同ETFは2024年末には上場廃止になる見込みです。
新興国だけではない政治的リスク #
政治的リスクは、一般に新興国で高い傾向にありますが、先進国でも政治的リスクに対する懸念が持ち上がることがあります。
例えば、英国において、2016年に欧州連合からの脱退決定(Brexit)についての国民投票で離脱が支持されたのを受け、英国の政治的リスクに対する懸念が大きくなりました。2017年に英国の中央銀行であるイングランド銀行が実施したシステミック・リスク・サーベイでは、次のグラフのように、91%の人が英国の金融システムにとっての最大のリスクは英国の政治的リスクであると回答しています。
政治的リスクの高い国 #
Political Risk Index(政治的リスク指数)を算出しているWorld Population Reviewは、2023年時点で政治的リスクが最も高い国の例として挙げています。
- ソマリア
- シリア
- ベラルーシ
- スーダン
- ベネズエラ
- レバノン
世界銀行による政治的リスクの評価 #
政治的リスクの評価を行なっている企業や機関は多くありますが、その一つが世界銀行の「Worldwide Governance Indicators」です。Worldwide Governanceでは次の6つの項目を評価して、「Worldwide Governance Indicators」として各国の政治的リスクを算出・公表しています。
発言の自由と説明責任(Voice and Accountability): 国民が政府選択に参加する権利の度合いや、表現の自由、結社の自由、報道の自由を評価します。民主的な統治の質を反映しています。
政治の安定性と暴力・テロ不在(Political Stability and Absence of Violence/Terrorism): 政府が違法または暴力的な手段で不安定化したり、倒されたりする可能性を評価します。政治的不安や暴力が頻発する国はこの指標で低く評価されます。
政府の効果性(Government Effectiveness:) 公共サービスの質、官僚機構の独立性、政策立案と実施の質を評価します。政府がどれだけ効果的に機能しているかを示す指標です。
規制の質(Regulatory Quality): 政府が健全な政策や規制を立案・実施し、民間部門の発展を促進できているかどうかを評価します。経済成長や市場効率をサポートする規制の有効性が反映されています。
法の支配(Rule of Law): 社会のルールに対する信頼と遵守の度合いを評価します。契約の履行、財産権、警察や裁判所の質、犯罪や暴力の可能性などを含みます。
汚職の抑制(Control of Corruption): 公権力が個人的な利益のために行使される程度(小規模な汚職から大規模な汚職まで)や、政府が汚職を防止・対応する能力を評価します。
例えば、2022年時点での政治の安定性と暴力・テロ不在の項目については、次の地図のよう色分けされており、色が薄いほどリスクが高いという評価です。
政治的リスクのまとめ #
政治的リスクは、
- 特定の国の政情不安や政治の混乱、重大な政策の失敗、紛争などの政治的要因により、株式や債券などの資産価値が下落したり、為替相場が暴落したりするリスク
- 政治的要因による金融市場の混乱から、資本・為替取引が制限され、その結果として経済が低迷するリスク
投資を検討している人は、投資対象国の政情、重要政策の変更、反政府勢力との紛争などの状況を、ニュースなどの報道でチェックすることが大切です。また、より客観的な評価を知るには、政治的リスクを評価する企業等のレポート等も利用しましょう。