ショート・セリング・ファンドとは
ショート・セリング(short selling)は、ヘッジファンドの運用手法の一つで、ファンドが保有していない株式を銀行や証券会社などから借りて、それを空売りし、株価が下落したところで買い戻し、株式を借り手に返却することで、株価の下落から利益を獲得しようとする運用手法のことです。この運用に特化したヘッジファンドをショート・セリング・ファンド、あるいは空売りファンドと呼びます。同じ空売りを活用するヘッジファンドに、ロング・アンド・ショートやマーケット・ニュートラルがありますが、両者が、ロングポジションとショートポジションを組み合わせるのに対して、ショート・セリング・ファンドは、空売りによってのみ利益の獲得を目指します。また、Dedicated Short Bias Fundsと呼ばれるヘッジファンドは、ファンドにおいてロングポジションとショートポジションをとるものの、ファンドに占めるショートポジションの方が大きいファンドのことです。
ショート・セリング・ファンドは、業績に対して株価が過大評価された株式や、会社のファンダメンタルズに問題があると評価される株式を空売りの対象とし、空売りした株式を安い価格で買い戻すことで利益を獲得します。そのため、一般に、株式市場などが弱気相場に入ったと見られる時期には、ショート・セリング・ファンドの人気は高まる傾向にあるようです。
ただし、ショート・セリング・ファンドのリスクは、ロングポジションを基本としたヘッジファンドよりも一般に高いとの見方もあります。それは、株価の下落には限界はあるものの、反対に株価の上昇には限界がないため、空売りした株式の価格が予想に反して上昇した場合には、ショート・セリング・ファンドの損失は極めて大きくなる可能性があるためです。
日本の公募証券投資信託においては、株式の信用売りを行なうことは認められていますが、売付けにかかる建玉の時価総額が当該ファンドの純資産総額の範囲内でなければならないと法律で規制されています。2012年5月末現在、空売りだけを行なうファンドは存在しません。
ショート・セリングに対する規制
ヘッジファンドのショート・セリングが一躍注目を浴びることになったのは、1992年のポンド危機でした。この時、ジョージソロスをはじめとするヘッジファンドがショートセリングにより英国ポンドを売り、結果としてポンドはERM(欧州通貨制度)から離脱せざるをえない状況に陥りました。この時、ジョージソロスは、100億ドル相当のポンドを空売りして、一日で10億ドル相当の利益を獲得したと言われています。
しかし、2008年のリーマンショックを受けて、多くの国において空売り規制・空売り禁止の措置が講じられました。時限的な措置として講じられたものもありましたが、現在、世界中で空売り規制が強化される方向にあります。なかでも、取引の裏付けとなる株式を保有しないで空売りを行うネーキッド・ショート・セリング(naked short selling)については、日本では2008年10月28日から禁止され、他の多くの国においても禁止または規制強化が行なわれており、これによりショート・セリング・ファンドやロング・ショート戦略のヘッジファンドが影響を受けたと言われています。
日本における空売り規制
日本では、「金融商品取引法施行令」及び「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」等により、金融商品取引所において行なう空売りについては、価格規制が設けられています。具体的には、金融商品取引所が直近に公表した価格以下の価格での空売りを行なうことはできません。
参考:有価証券の取引等の規制に関する内閣府令:
2 令第二十六条の四第一項本文に規定する内閣府令で定める価格は、空売りに係る有価証券につき当該空売りが行われる取引所金融商品市場を開設する金融商品取引所が当該空売りの直近に公表した当該取引所金融商品市場におけるマーケットメイカーが出した最も高い買付けの気配の価格とする。
日本における空売り規制の詳細については金融庁「空売り規制・自己株式取得に係る時限措置の延長に関する内閣府令・告示の公布について」をご覧ください。
EU(欧州連合)における空売り規制
EUにおいては、空売りを規制するShort Selling Regulation(SSR)が合意され、2012年11月1日から導入されることになっていますが、ロイター通信によると、2012年5月に英国がEUの空売り規制案について、EUの権限の範囲を超えるとして欧州司法裁判所に提訴しています(http://uk.reuters.com/article/2012/06/01/uk-britain-regulation-shortselling-idUKBRE8500Q320120601)