投資信託の併合とは?


投資信託の併合

投資信託の併合は、投資対象や保有資産、運用方針が同様の異なる2本以上の投資信託を1本にまとめることを言います。各々の投資信託で運用されてきた資産(信託財産)は一つにまとめられて1本の投資信託として運用されることになります。その結果、一方の投資信託は消滅(消滅ファンド)し、もう一方が存続(存続ファンド)します。投資信託の合併と考えることができます。

投資信託の併合は、投資信託及び投資法人に関する法律では「受託者を同一とする二以上の委託者指図型投資信託の信託財産を一の新たな委託者指図型投資信託の信託財産とすること」とされています。したがって、併合されるためには、受託者(信託銀行)は同じである必要があります。受託者は、ファンドの財産を保管し、管理を行なう会社で、運用会社からの指図により、ファンド資産の売買を実行する会社です。

投資信託の併合は運用会社が勝手に行ってよいものではなく、併合のためには、書面上で投資家の半数以上かつ議決権の3分の2以上の賛成を得ることが必要とされています(2020年7月現在)。ただし、「受益者の利益に及ぼす影響が軽微なもの」については、双方の投資信託において、書面による決議は必要ありません。

 

受益者の利益に及ぼす影響が軽微なものとは

では、「受益者の利益に及ぼす影響が軽微なもの」とはどのようなものでしょうか。

投資信託及び投資法人に関する法律施行規則第二十九条の二において次の3つの要件の全てに該当するものとされています。

  • 併合後の投資信託に属することとなる財産が併合前の投資信託約款に記載された投資信託財産の運用方針に反しないと認められること。
  • 併合の前後で投資信託商品としての基本的な性格に相違がないこと。
  • 投資信託財産の純資産総額が併合をする他の投資信託の投資信託財産の純資産総額の5倍以上であること。ただし、当該投資信託の投資信託財産と当該他の投資信託の投資信託財産の内容が実質的に同一であると認められる場合はこの限りではない。(つまり、同じ指数への連動を目指すインデックスファンドの併合であれば、一方の投資信託の純資産総額がもう一方の投資信託の純資産総額の5倍以上でなければならないという要件は考慮する必要がないということです。)

 

したがって、約款上、併合前と同じ資産に投資可能であり、併合しても商品の基本的な性格が変わらないのであれば、また、同じ指数への連動を目指すインデックスファンドのようにファンドの内容が同一であれば片方のファンドの純資産総額がもう一方のファンドの純資産総額の5倍なくても、受益者の利益に及ぼす影響が軽微なので、書面決議なしに併合可能であるということになります。

 

投資信託の併合が行われる理由

では、なぜ投資信託の併合が行われるのでしょうか。

日本には同じ運用会社によって設定・運用されている運用規模の小さく似たような投資信託が数多く存在しています。

実際に、投資信託の運用会社が83社であるのに対し、公募の追加型株式投資信託(除くETF)だけでも5,493本(2020年5月末現在)が運用されています。1社当たり平均運用ファンド数は909本です。この残高の合計は60.8兆円ですから、投資信託1本当たりの平均残高(運用資産)は約110億円です。しかも、このうち残高500億円以上のファンドが全体の246本あり、これら246本のファンドの残高の合計が約33.6兆円と半分以上を占めていますので、残りの5,246本のファンドの平均残高は70億円程度ということになります。

つまり、全体の95%のファンドの運用残高は非常に小さいのです。しかも30億円程度という極めて規模の小さいファンドも多く存在しており、このような規模が小さくなってしまったファンドは、目論見書で定めている運用方針に則った運用ができなくなり、結局のところ、繰上償還されてしまう可能性が高くなります。

なぜ、このような状態になってしまったのでしょうか。

投資信託の設定は、運用会社が行いますが、どのようなファンドを設定するかは一般的には運用会社と販売会社の相談の上で決定されます。こんなファンドはどうかと運用会社から提案するケースもあれば、販売会社からこんなファンドが欲しいと持ちかけるケースもあります。どちらから提案されたかは別として、結果的には、その時々に投資家の関心を引くことができる、売れると見込まれる話題になりそうなファンドを次々に設定してきた結果が今の状態であると言えます。投資家の関心は移りやすく、注目の投資テーマだと思われたものが、短期間で賞味期限切れになってしまうことはよくあることです。そうなれば、いっとき人気があったファンドも、売れなくなったり、売却されたりしてファンドの規模は小さくなってしまいます。

また、ファンドを設定してから、運用会社と販売会社の両者が協力して1本1本のファンドを大切に育ててこなかったことや、投資信託の長期投資の有効性を投資家が理解していなかったこと、コストの安い投資信託を長期的に積み立てることが資産形成にとって重要であるという認識が今ほどは投資家側に浸透していなかったために利益が出ると売却してしまう傾向にあることなども、現状を生んだ要因であったかもしれません。

 

投資信託の併合の目的

投資信託の運用にはさまざまな経費がかかります。そのため規模の小さい投資信託は、運用会社にとってはコストパフォーマンスが悪くなります。また、規模が小さくなりすぎると運用方針に則った運用ができなくなり、場合によっては繰上償還されてしまうことになります。実際に、毎月多くの投資信託が運用残高が少ないという理由であらかじめ定められた信託期間を満了することなく繰上償還されています。

そのため、複数の運用残高が小さい投資信託を1つに併合することで、運用残高の規模を大きくし、運用効率を改善することを目的として、投資信託の併合が実施されます。

 

日本初の公募投資信託の併合

日本初となる公募投資信託の併合は、2020年5月に野村アセットマネジメントによって実施されました。野村アセットマネジメントは、「野村インデッックスファンド・国内債券」と「野村ターゲットプライス「日経225」(国内債券運用移行型)」を併合しました。存続ファンドは野村インデッックスファンド・国内債券です。

 

存続ファンド 消滅ファンド
ファンド名 野村インデックスファンド・国内債券 野村ターゲットプライス「日経225」(国内債券運用移行型)
主な投資対象 国内債券(国内債券NOMURA-BPI総合マザーファンド受益証券 日本株式(野村日経225マザーファンド受益証券)

国内債券(国内債券NOMURA-BPI総合マザーファンド受益証券

(合併時においては国内債券NOMURA-BPI総合マザーファンド受益証券のみに投資)

受託者

野村信託銀行株式会社