金融商品販売法とは
金融商品販売法は2000年5月23日に成立した法律です。その後、2001年4月1日に施行されました。正式な名称は「金融商品の販売等に関する法律」といいます。
(なお、金融商品販売法は、2020年6月5日に、「金融サービスの提供に関する法律」に改称され、「金融サービス仲介業」が創設されました。)
この旧金融商品販売法は、金融サービスの利用者保護を図るために、金融商品販売業者の顧客に対する説明義務、説明しなかったことによって生じた損害の賠償責任を民法の特例として定める等の措置を講じました。また、金融商品販売業者が適正な勧誘を行なうようにするために、金融商品販売業者に「勧誘方針の策定・公表」を義務付けました。
旧金融商品の販売等に関する法律 第1条(目的) |
この法律は、金融商品販売業者等が金融商品の販売等に際し顧客に対して説明すべき事項及び金融商品販売業者等が顧客に対して当該事項について説明をしなかったことにより当該顧客に損害が生じた場合における金融商品販売業者等の損害賠償の責任並びに金融商品販売業者等が行う金融商品の販売等に係る勧誘の適正の確保のための措置について定めることにより、顧客の保護を図り、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的とする。 |
旧金融商品販売法の背景
金融ビッグバン(金融システム改革法:平成10年12月1日施行)の名のもと、過去数年にわたり金融の世界では規制緩和が進んできました。それに伴い、様々な新しい金融商品が販売されるようになりました。この中には、派生商品を利用した商品のように複雑な仕組みのものや、為替リスクなどのように個人投資家には馴染みの薄いリスクがある商品もあります。
新しい金融商品が生まれることで、投資家にとっては運用の選択肢が増えていますが、同時に自己責任が求められるようになりました。多種多様な金融商品の中から自分の責任において商品を選択し、その結果は全て自分の責任であるということです。
そこで、投資家保護の一環として金融商品を販売する側にもそれなりの販売者責任を課したのがこの金融商品の販売等に関する法律であり、その販売者責任が説明義務や賠償責任、そして勧誘方針の策定・公表というわけです。
金融システム改革法により改正された項目例 |
・新しい投資信託商品(会社型投信や私募投信)の導入 |
・銀行等による投資信託の窓口販売の導入 |
・証券デリバティブの全面解禁 |
・証券会社の専業義務の撤廃 |
・株式売買委託手数料の完全自由化 |
・証券会社の免許制から原則登録制への移行 |
・銀行・証券・保険間の相互参入の促進 |
・私設取引システムの導入 |
旧金融商品販売法の対象業者
この法律でいう「金融商品の販売」とは、次に挙げる様々な金融商品の販売業者を対象としています。
- 預金・貯金・定期積金
- 無尽掛金
- 金銭信託
- 保険・共済
- 有価証券
- 信託の受益権、抵当証券、商品投資受益権、特定債権の小口債権、譲渡性預金
- 商品投資
- 特定債権等組合契約
- 不動産特定共同事業契約
- 有価証券先物取引、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引、外国市場証券先物取引、金融先物取引
- 有価証券先渡取引、有価証券店頭指数等先渡取引、有価証券オプション取引、有価証券店頭指数等スワップ取引、店頭金融先物取引
- 金利オプション、通貨オプション
また、今後も様々な新しい商品が生まれることが予想されますが、そのような新しい金融商品については、その都度、政令で定めることでこの法律の対象とすることになっています。
金融商品販売法における重要事項の説明義務
金融商品販売法は、金融商品の販売を行なうものに対して、金融商品の販売が行なわれるまでに、顧客に対して「重要事項」について説明をしなければいけないとしています。そして、この重要事項について説明をしなかったときは、これによって生じた顧客の損害を賠償する責任が生じます。
ここでいう重要事項というのは法律の中では次のように定義されています。
- 金利、通貨の価格、有価証券市場における相場その他の指標の変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、その旨と当該指標
説明 これは「市場リスク」のことです。金利、為替、株式、債券市場はリアルタイムで変動します。その変動によっては元本欠損が生じるおそれがある商品の場合には、元本欠損のおそれがあることを説明し、その指標について説明することが義務付けられています。 - 金融商品の販売を行なう者その他の者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、その旨および当該者
説明 これは「信用リスク」のことです。金融機関の信用状態や、第三者の信用状態により商品に元本欠損が生じるおそれがある場合は、その旨と誰の信用状況によっては元本欠損が生じる可能性があるのか説明する義務が生じます。 - 顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定める事由を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、その旨および当該事由
説明 これは上記の市場リスクと信用リスクのほかにも、今後政令において「重要事項」が追加されてゆくことを意味しています。政令については、金融庁や内閣府のホームページで公表されます。 - 権利を行使することができる期間の制限又は契約の解除をすることができる期間の制限があるときは、その旨
説明 これは例えば、投資信託のクローズド期間やワラントの権利行使期間などのように解約できる期間が制限されていたり、権利を行使できる期間が制限されている場合には、それを説明する義務があるということです。
では、この「元本欠損が生ずるおそれ」の「元本欠損」とはどういう意味なのでしょうか。
「元本欠損が生ずるおそれ」とは
説明義務に関しては、金融商品販売業者が重要事項を説明しなければいけないのは「元本欠損が生ずるおそれがある」場合とされています。
この法律では「元本欠損のおそれ」を「顧客の支払うこととなる金銭の合計額が、顧客の取得することとなる金銭の合計額を上回ることとなるおそれがあること」と定義しています。
では、投資信託を例に、この「顧客の支払うこととなる金銭の合計額」と「顧客の取得することとなる金銭の合計額」を考えてみましょう。
投資信託において「顧客の支払うこととなる金銭の合計額」は、投資信託の購入価額と販売手数料の合計額となります。(ただし、投資信託によっては、この販売手数料がかからないものもあります。)
「顧客の取得することとなる金銭の合計額」というのは、投資信託の配当の累計額と償還額(追加型投資信託の場合は売却価額)を合計したものとなります。 (ただし、解約手数料の必要な投資信託においては、この合計から手数料を差し引いた金額となります。)
投資信託の基準価額は、投資対象である債券や株式の変動により影響を受け上昇することも下落することもありますから、「顧客の支払うことになる金銭の合計額」が「顧客の取得することとなる金銭の合計額」を上回る可能性はあります。つまり、投資信託のように元本保証のない金融商品に関しては、元本欠損の生ずるおそれがあるわけですから、元本欠損についての説明義務が生じます。
勧誘方針の策定・公表
金融機関の店頭やホームページに「当社の勧誘方針について」等という文章が掲載されているのを目にした方は多いと思います。例えば、次のような文章です。
当社の勧誘方針について(例) |
お客様に当社の勧誘方針をお伝えします。当社は、「金融商品の販売等に関する法律」、「証券取引法」、その他関係諸法令・諸規則を遵守し、以下の方針に従い、お客様に金融商品の適正な勧誘を行います。
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これは、2001年4月1日にこの法律が施行されたのを受け、この法律の「勧誘方針の策定・公表」義務に従ったものです。
金融商品販売法において、金融機関は勧誘方針について次の事項に関する方針を定めることが義務付けられています。
- 勧誘の対象となる人の知識、経験及び財産の状況に照らし配慮すべき事項
- 勧誘の方法及び時間帯に関し勧誘の対象となる者に対し配慮すべき事項
- 上記2点のほか、勧誘の適正の確保に関する事項
最後に、この法律により、金融商品の販売側に対しては説明義務が明文化されましたが、投資における「自己責任原則」が変わったわけではありません。金融商品を選択するための十分な知識をつけることや商品やリスクを理解することは、あくまでも投資家の責任です。様々な投資商品を有効に活用するためにも、わたしたち個人投資家も勉強が必要なのです。