不動産投資法人の利益超過分配金
不動産投資法人(REIT)の決算短信などを見ると、分配金が2種類記載されていることがあります。一つは通常の分配金で、もう一つは利益超過分配金と呼ばれるものです。この不動産投資法人(REIT)の利益超過分配金とは、会計上の利益を超えて投資主に分配される分配金のことです。
不動産投資法人は、通常、税法上の特例要件(租税特別措置法第67条の15第1項投資法人の課税の特例)を満たすために、会計上の利益の90%超を投資主に分配します。会計上の利益とは、テナントから受け取った賃料から費用等を控除したもののことで、税引前当期利益のことです。不動産投資法人は、税引前当期利益の90%超を分配金として投資主に支払うことで、その分配金に相当する額を法人税法上の経費として計上でき、実質的には法人税がかからない仕組みになっています。
したがって、利益のほとんどが分配金として投資主に支払われ、この結果、1口当たり分配金は、通常は、1口当たり当期利益と同程度になります。この部分が、利益を源泉とする通常の分配金です。
一方で、不動産投資法人は、投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)で、利益を超えて金銭を分配することが認められています(投信法第 137 条第 3 項)。これにより、会計上の利益を超えて分配が実施されることがあります。これが利益超過分配金です。
利益超過分配金の例
例えば、2016年8月に決算を迎えたGLP投資法人のケースを見てみましょう。同投資法人では、1口当たり分配金(2,024円)と1口当たり利益超過分配金(297円)の合計額2,321円が投資主に支払われました。2,024円は通常の利益を源泉とする分配であり、297円は利益超過分です。
決算期 | 営業収益(百万円) | 営業利益 (百万円) | 経常利益 (百万円) | 当期純利益 (百万円) | 1口当たり 当期純利益(円) | 1口当たり 分配金 (円)(注) | 1口当たり 利益超過 分配金(円) |
16年8月期 ( 第9 期) | 12,278 | 6,328 | 5,252 | 5,250 | 2,024 | 2,024 | 297 |
(注)利益超過分配金は含まない
利益超過分配金はどこからくるのか
通常の分配金が利益の分配であるのに対し、利益超過分配金の原資はどこからくるのでしょうか。
不動産投資法人では、保有している建物等の減価償却費が毎期発生し計上されます。これは、現金支出を伴わない会計上の費用です。会計上は減価償却費の分だけ利益は減少しますが、減価償却費相当額の現金は投資法人に留保されることになります。利益超過分配金は、この内部留保された現金を投資主に還元するものです。
投資信託協会の規則(不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則第28条)では、毎期計上する減価償却費の6割を上限として分配金に充てることが可能と規定されており、この規定に基づいて利益超過分配は実施されます。
なぜ、利益超過分配を行うのか
不動産投資法人では、地震による被害の原状回復工事や建物の解体工事など、一時的に利益を大幅に減少させる費用が発生することがあり、これにより通常の利益を源泉とする分配金の額が影響を受けます。このような場合に、不動産投資法人によっては、安定的な分配金を投資主に支払うことを目的として、利益超過分配を行うことで、安定した分配金額の支払いを継続させることがあります。
例えば、イオンリート投資法人では、第 7 期(2016 年 2 月 1 日~2016年 7 月 31 日)において熊本地震の被害により、最終損益が約16億円の損失となり、投資口1口当たりの利益分配金は0円となりましたが、同投資法人の規約に基づき、第 7 期の減価償却費約31.7億円の 約60%である 18.9億円を利益超過分配金の原資にして、1口当たり1,450円を分配しました。
また、内部留保という余剰金の有効活用として、原則として内部留保から毎期継続的に利益超過分配を行うことを分配方針としている投資法人もあります。
なお、税法や投信協会規則等は改正されることがあります。最新の情報は国税庁や投資信託協会のHPでご確認下さい。