通貨選択型ファンド
2009年頃から「通貨選択型」と呼ばれるファンドの設定が急速に増加しました。通貨選択型ファンドは、海外のハイイールド社債、新興国の債券、REIT(不動産投資信託)など比較的高利回りの資産に投資すると同時に、外国為替取引を行なうことによって、投資対象資産の値上がり益と外国為替取引による利益の獲得を狙う投資信託のことで、外国為替取引部分について、選択可能な通貨が複数用意されていることから通貨選択型ファンドと呼ばれています。
通貨選択型ファンドの仕組み
例えば、欧州のハイイールド債券に投資するタイプの通貨選択型ファンドにおいて、為替取引について豪ドル、ブラジル・レアル、トルコ・リラの3つの通貨から選択可能というものであれば、次の3本のファンドが用意されていることになります。なお、この例では、選択可能な通貨は3通貨ですが、通貨の種類や数はファンドにより異なります。
(1) 通貨選択型ファンド(豪ドルコース)
(2) 通貨選択型ファンド(ブラジル・レアルコース)
(3) 通貨選択型ファンド(トルコ・リラコース)
(1)の通貨選択型ファンド(豪ドルコース)は、欧州のハイイールド債券投資からの配当収益や長期的な債券の値上がり益と豪ドルの対円での値上がり益の獲得を目指します。さらに、豪ドルの金利と日本円の金利の間に金利差が発生するため、為替ヘッジプレミアムと呼ばれる金利差収入の獲得も期待されます。
同様に(2)の通貨選択型ファンド(ブラジル・レアルコース)は欧州のハイイールド債券投資からの収益とブラジル・レアルの対円での上昇、ブラジルと日本の金利差を、(3)の通貨選択型ファンド(トルコ・リラコース)は欧州のハイイールド債券投資からの収益とトルコ・リラの対円での値上がり益、日米間の金利差収益の獲得を目指します。つまり、通貨選択型ファンドでは、ハイイールド債券などの実質的な投資対象からの配当や値上がり益、為替取引による為替差益、金利差益の3つの収益の源泉が存在することになります。
通貨選択型ファンドの損失の源泉
ただし、これらを逆に考えれば、ハイイールド債券の値下がり、為替変動による為替差損、金利差逆転による為替ヘッジコストという3つの損失の可能性をもっていることになります。単純に、日本の債券に投資するファンドであれば、債券価格の変動によるリスクだけを考慮すればすみますが、通貨選択型ファンドでは、収益の源泉が3つ存在している分、損失の源泉も3つ存在しており、よりハイリスク・ハイリターンの投資対象であると言えます。
しかも、実質的な投資対象であるハイイールド債券や新興国の債券などは、先進国の国債や一般企業の社債に比べて信用度が低く、それ自体がハイリスクの投資対象です。
為替リスク
また、為替取引部分について、用意されている通貨の多くはブラジル・レアル、トルコ・リラ、メキシコ・ペソなど、新興国の通貨が多く、先進国の通貨より大きな為替リスクを抱えています。
なお、ファンド名には「通貨選択型」あるいは「通貨選択シリーズ」といった言葉が含まれているものも多く存在しますが、単に「新興国債券ファンド・ブラジル・レアルコース」「新興国債券ファンド・トルコ・リラ・コース」のように、通貨選択型という言葉がファンド名に含まれていないファンドもあります。