今回のテーマは、提案内容から担当者が信頼に足るIFA(独立系アドバイザー)であるか否かを推し量る方法です。銀行や証券会社で相談する場合は、自分から担当者を指名するのは難しいことですが、IFAならばセミナーの参加やホームページでの担当者紹介、さらには面談の機会を通じて、自分好みのアドバイザーに直接アクセスすることも可能になります。
資産運用の相談とは、提案内容の如何によっては、あなたのこれからの人生を大きく変える可能性があるものですから、これを機に信頼できる相談相手を探してみてはいかがでしょうか。しかしながらIFAという看板を掲げていても、実態は手数料稼ぎを目的とした証券マンとなんら変わりのない仮面IFAも少なからず混在しますので、今回はあなたの選んだアドバイザーが信頼に足る相手か、それともフェイクかを見分ける方法について説明いたしましょう。
先ずは最初に確認しておきますが、あなたの資産運用の目的が以下に掲げる3ケースを想定した場合のIFA探しです。「マーケットを予測して手っ取り早く儲けたい」的な短期運用をされたい場合は、これまでのシリーズで説明してきましたように、資産を増やすことを目的とするというよりは、ゲームのように楽しむことを目的とした資産運用と割り切ることが必要と申し上げました。やるのは自由ですが、あなたを相場予測で勝ち続けさてくれるアドバイザーなど、断言しちゃいますけど生涯出会うことはないでしょう。どちらの運用を目指すのか、それはあなたの考え方次第です。
【本稿の想定するゴール】
- 老後資産を現役の今から準備したい〈じぶん年金作り〉
- 退職金で資産運用を行いたい〈資産寿命を延ばしたい〉
- 10年以上の時間軸で長期投資をしてみたい〈長期的な資産運用〉
さあ、IFAがあなたにどのような提案をしてきたら、信じてついて行くべきか、それとも直ちに踵を返して他所を当たるべきでしょうか?
ⅰ)「あなたのゴール」を聞いてきましたか?
先ずは、あなたのファイナンシャル・ゴールを聞いてこなかったとしたら、即アウトです。ゴールを設定しなければ、戦略立案のしようがありませんので、ゴールを聞いてこないということは、「売りたい商品が先にありき」と考えているのかもしれません。用心が必要です。
具体的にゴールとは、何歳までにいくらのお金を作りたいのか、そのためにどのくらいのお金を運用に回せるのかを全体の資産の割合で検討を加えることです。さらには運用年数、想定リターン、そのリターンを獲得するためのリスク度を設定します。例えば、想定リターンで7%の運用を目指すと、リーマンショック時のような大暴落の局面では、金額ベースでこれくらいの損失を被る可能性がありますよ、これだけ元本を毀損しても耐えられますかとリスク許容度の確認を行ってくれていたかです。
もし、その損失には耐えられないと答えれば、期待リターンを引き下げて、その際のポートフォリオはこう修正し、損失額もこの程度に減少しますが、今度はいかがでしょう・・・と、期待リターンとリスクに折り合いをつけていくプロセスです。
病院で診察を受けますとインフォームド・コンセントというのがありますが、それに近い考え方ですね。トレーニングされたプロのアドバイザーであれば、必ず金額ベースでの“リスク・インフォームド・コンセント”をしてくれるはずです。銀行や証券会社の場合には、単品商品を相場観で販売することは多いので、このような提案がされることはまずないでしょうが、プロの独立系アドバイザーであれば、普通にやってくれることです。
ⅱ)「シナリオトーク」はここに注意
アドバイザーが世界経済やマーケットについての見通しを語ってくれること(シナリオトーク)は決して悪いことではありませんが、その予測に基づいた特定の資産に集中投資を勧めてきたら用心してください。その担当者は、ミスター・マーケットかもしれません。「本稿で想定するゴール」を思い出してください。ミスター・マーケットは、短期で増やす資産運用の戦略なので、長期投資の場合には相場観は必要ありません。ゴールと戦略を一致させましょう。
アドバイザーの前職も確認しておきましょう。筆者の経験から言うと、証券会社出身の方はミスター・マーケットが圧倒的に多いです。『ウォール街のランダムウォーカー』という米国でのベストセラー書籍があります。そのなかでチャート分析などを駆使して顧客に短期売買を勧める証券マンのことを、「ヨットを買おうとする顧客の足を引っ張り、売買手数料が増えることで証券マンがヨットを買うのを助ける」と記されています。この例え話はウケますよね。一般の人は証券マンのことをマーケットのプロと思われている方が多いかもしれませんが、実際のところはそうではなく、“顧客に証券を売買させる”プロなのです。
ⅲ)「一括投資」を勧められたら要注意
あなたのアドバイザーが、今が絶好の買い場と一括投資を勧めてきたら、完璧なミスター・マーケットです。一括投資でまとまった手数料が欲しいのでしょう。繰り返しになりますが、長期的な資産形成が目的ならば「一括投資」は最適戦略ではありません。長期が目的であれば、その最適戦略となる「積立投資」か、あるいは「分割投資」を勧めてくれるアドバイザーと付き合いたいものです。参考まで「積立投資」とは、現在キャッシュフロー収入がある人が毎月その一定割合を積み立てる手法で、「分割投資」は退職金のようにまとまったお金を複数回に分けて定額購入する手法で用語を使い分けています。
ところで私自身はどうかというと、実は一括投資を普通に行っています。自分ではやるけども、このシリーズでも書いてきたように一般の人には勧めていません。なぜなら、一般の投資家の方が資産運用で成功していただくためには、暴落しても恐怖を感じない仕組みの導入が必要だと長年の経験からわかっているからです。
たまに積立投資は効率的でないのでは?と質問を受けますが、いつもその通りと回答しています。長期的に市場が上昇するという前提に立てば、積立投資よりも一括投資のほうが投資効率は高いに決まっています。それでもあえて積立投資を勧めるのは、例えば、コロナウィルス・ショックで高値から30%近く下落しましたが、ほとんどの個人投資家はもっと下がるのではないかと恐怖におびえていますよね。ここで怯むような人は一括投資をやってはいけないのです。「価値あるものが安く買えるバーゲンセールス到来」と喜んで買えるような人にのみ一括投資が許されるものと考えてください。
最後になりますが、実際に何人かのIFAに足を運んで提案してもらってみませんか?そして、提案内容を比較してみませんか?本シリーズの初回で自己紹介させていただきましたが、私は日本で最初のIFAプラットフォーマーの立ち上げに関わりました。そこではIFAの方々には、以下のような流れで運用の提案をいただいておりました。
- 顧客の資産状況、ゴール設定、投資期間(10年以上の確認)をヒヤリングいただく
- 顧客のリスク許容度、ゴールに基づくモデルポートフォリオ提示 (日本株〇%、先進国株〇%、新興国株〇%、世界債券〇%、世界転換社債〇%)
- 上記ポートフォリオのインデックスリターンでリスク・インフォームド・コンセント (このポートフォリオを各インデックスで運用した場合の過去の運用成果をグラフで示し、例えばITバブル崩壊のような暴落局面では××万円損失していたが、これくらいの損失に耐えられるかを確認する作業)
- 上記確認作業をもとに、一括投資と積立・分割投資の比率を決める
- 各アセットクラスに属する推奨ファンドを割り当てる
- 個別商品の説明
資産運用の提案にこうでなくてはならないという特別なプロトコールはないのかとは思いますが、上記のようなプロセスがIFA提案の基本ではないかと思います。多くの銀行や証券会社で提案を受けると、経済や市場予測から始まって、有望な投資先の商品説明に入るのが一般的な流れだと思います。さて、皆さんの担当IFAはどのような提案をしてくれましたか?
一般社団法人 経済教育支援機構 代表理事
「上地ゼミ」学長 上地明徳
(信州大学経営大学院特任教授)