さて、予測するときにいろいろな技法がありますが、その一つにデルファイ法というのがあります。デルファイあるいはデルフィーはギリシャの神殿の女神の名前なのだそうです。要するに将来を占うという神官の意味なのだそうですが、その名に因んで、ある種の予測技法をデルファイ法と一般的に呼んでいるわけです。
具体的にはこういう方法です。たとえば「5年後10年後の日本の社会はどうなっていますか?」ということを社会学者等100人にアンケート調査して、回答をもらいます。回答をもらったあと、残りの99人の先生はこういうことを考えているのですよということをその学者にフィードバックをするわけです。そして、そのフィードバックした後もう一度同じ調査をします。そうすると他の人の意見に影響を受けるというか、ああなるほどと思いつつ回答を修正していくということが起こります。これを何回か繰り返すことによって学者100人のコンセンサスが得られることになります。これがデルファイ法です。
簡単に言いますと「クイズ100人に聞きました」ということをやるわけです。それがデルファイ法なのですが、実はマーケットではこれを全く違った使い方をします。たとえば為替のディーラー100人にドルが上昇するか下降するのかという予想を聞きます。100人が100人、ドルが上昇すると答えたとします。上昇するわけがありません。絶対に下がります。100人が100人ともドルが上昇するということはドルが下がるということなのです。やり方はデルファイ法と全く同じですが導かれる結論は反対となります。アンケート調査を繰り返してなるほどみんな上がると思ったとたんに相場は下がりはじめるのです。これを実は相場の世界ではコントラリーオピニオンつまり反対意見、逆張りの意見と言います。すなわち予測が全員が全員同じ様になるということは、結果としては間違っていると見なすということです。また予測としては正しかったかもしれないが、みんなが同じポジションを取ることによってこれからドルが買われるべき時に買い手がいない、すなわち相場は下落してしまうということなのです。
湾岸戦争の時もそうでした。私もマスコミから「有事のドル買いは何故起こらないのですか?」とよく質問されました。あの時はミサイルが発射された瞬間にドルが落ち始めたのです。それは当然と言えば当然で、みんなはドルが上がるのがわかっていたので、ドルを買っていない人はなく(みんながドルをすでに買っていた)、会社で決められたポジション以上の持ち高を持っている人までいたと思われます。つまり、相場が落ち始めた時は、逆に投げなくてはならなくなる。こういうことが起こったわけです。