インベスコは、2020年5月18日、世界の債券投資家の投資行動に関する調査レポート「インベスコ・グローバル・フ ィックスト・インカム・スタディ 2020」を発表した。第3回目となる今回の年次調査は、北米、EMEA、アジア太平 洋地域の最高投資責任者(CIO)および債券投資家 159 名を対象として行われた。今回の調査から、世界 の投資家には、以下の3つの傾向があることが明らかになった。
- 新興国債券へ、国の選別を重視しながらも投資配分を高めている。
- 高い市場ボラティリティの中、ESGファクターによってリスク・コントロールを行う動きが見られる。
- 債券市場の流動性に対する懸念を高めている。
今回の調査では、新興国債券に資産配分している投資家が、2018 年の 49%から今年は 72%へ増加していること が明らかになった。また、回答者の 54%は、ESG の分析が債券投資へ新たな付加価値をもたらしうると考えている。そして、回答者の半数以上(51%)は、より困難な投資環境においての債券市場への不透明感を反映した、債券市場の流動性に対する懸念を示している。さらに、回答者のほぼ半数(43%)は、新型コロナウイルス感染拡大以前から、記録的な長期の景気拡大局面の終焉が、調査が実施された時点から1年以内に訪れると考えていたことも明らかになった。
今回の調査では、北米、EMEA、アジア太平洋地域の債券投資家(運用資産総額は 20 兆米ドル、2019年12月31日時点)159 名に対して、2019年10月から 11月に個別面談調査を実施した。回答者には、確定給付型年金基金と確定拠出型年金基金の担当者、ソブリン・ウェルス・ファンド、保険会社、プライベート・バンク、多岐にわた る運用戦略のファンド・マネジャー、マルチ・アセット・マネジャー、クオンツ・アナリストなどが含まれている。
主な調査結果は以下の通り。
新興国債券への、より選択的なアプローチ – 投資家は国別配分をより重視
今回の調査では、新興国債券に対する関心が高まっていることが明らかとなった。堅調なパフォーマンス、相対的に高い利回り、分散投資上の理由によって、投資家は同資産への配分を増加させている。新興国債券に資産配分を行う投資家の割合は、2018 年の第一回目調査では 49%だったが、今回の調査では 72%と増加がみられる。また、 投資先の選定においては、分散効果よりリターン上の理由により、国別配分を重視する投資家が 63%まで増加している。中国に関しては、経済と政治システムのユニークな特性や、同国へ投資する障壁が低下しているとの認識から、新興国債券に資産配分を行っている投資家の42%が、中国への投資に関心を持っていると回答している。なお、回答した投資家の 62%は、2 年前と比較して、中国市場へのアクセスが容易になっていると回答している。
インベスコの債券運用部門であるインベスコ・フィックスト・インカム(以下、IFI)のチーフ・ストラテジスト兼ヘッド・オブ・マ クロリサーチを務めるロブ・ワルドナー氏は以下のようにコメントしている。
投資家は、新興国債券市場を複数の国が集ま った単一の資産クラスとは考えなくなりました。現在、中国などの特定の市場への関心が高まっていますが、これは長期的 なトレンドであると考えられます。特に中国債券は、2019 年、パフォーマンスが良好であった資産の 1 つで、中国債券の パフォーマンスを上回るのは米国債券だけであったことが注目されています。我々の調査では、北米の投資家にとって新 興国債券への配分は主に分散投資がその動機であるものの、68%の投資家はこれらの資産配分を、長期的に安定し た投資目標を意図したサテライトではなくコアな投資として行っていることが明らかとなっています。
アジア太平洋地域の投資家は、EMEA や北米の投資家と比較して、新興国債券に投資することに積極的。アジア 太平洋地域の投資家の 89%が新興国債券への資産配分を増加させているのに対し、同比率はEMEAでは 80%、 北米では 51%の投資家にとどまっている。アジア太平洋地域の投資家は、債券ポートフォリオの中で新興国債券への配分の割合が 7.2%と、EMEA6.5%、北米 3.6%に対して高く、また中国債券への配分比率の平均は 6.1%と最も高くなっている。
IFI のアジア・パシフィック債券運用責任者であるフレディ・ウォン氏は次のようにコメントしている。
中国資本市場の継続 的な開放、主要グローバル指数への組み入れなどの要因により、世界とアジア地域からの中国債券への関心が高まっています。中国の債券市場はすでに世界第 2 位の規模を誇り、特に分散投資と潜在的に高いリターンという点から、投資 家に大きな利益をもたらしています。アジアに拠点を置く投資家だけでなく、EMEA や北米の投資家も、特に中国債券への資産配分を増やしており、今後 3年間は中国への資産配分の増加が続くことが見込まれます。
ESG ファクターの債券投資における有用性の高まり
投資家は、ESG を消極的な指標として扱うのではなく、発行体の ESG によるリスク管理は投資リターンを高めるものであると認識しはじめている。特に、環境「E」、およびガバナンス「G」の基準で見劣りする発行体は、借入れおよび借り換えコストの上昇に直面する可能性があり、投資家の有価証券のバリュエーション判断へ明らかな影響を与える。調査 回答者の 54%が、ESG の分析は債券の本質的な価値を明らかにするものと考えている。そして、債券運用にESG分析を取り入れている投資家の50%が、それをリターン向上の主要なドライバーであるとしている。また、同じく ESG分析を取り入れている投資家の46%は、運用成果にプラスの影響をもたらしたと考えており、逆にマイナスの影響をもたらしたと考えた投資家は、わずか 3%だった。
「かつて ESG 分析を株式投資の手法と捉え、債券投資に利用していなかった投資家に変化が起きています。今ではESG 分析は債券運用にとって重要な投資戦略であると認識しています。我々の調査によると、現在、債券運用者の約4 分の 1 が ESG 分析を取り入れ、包括的な投資戦略の助言には不可欠な要素であると考えています」とワルドナー氏はコメントしている。また、「現在の市場のボラティリティを鑑みて、デュー・デリジェンス・プロセスの一環としての非財務リスクの分析には継続的な関心が寄せられています。これは、しっかりとした ESG 分析よって明らかになる発行体のリスクとクレジット・リスクの関連性を考えると、理にかなっているものと言えるでしょう」と述べている。
アジア太平洋地域では、過去 3 年間で ESG 分析の採用が最も顕著に増加しており、これは北米の投資家を追い抜き、EMEA における投資家の同分析の採用水準に追いついている。アジア太平洋地域の投資家の 69%が ESG 分 析を債券運用に組み入れており、これは昨年の調査の 38%のほぼ 2 倍となっている。中国における ESG 情報開示の義務化や、日本の GPIF のような巨大な公的年金基金によるESG への取り組みは、アジア太平洋地域におけるESG 分析の採用を飛躍させるきっかけとなった。
「アジア太平洋地域の投資家が ESG 分析を、投資戦略としてどのように捉えているか、また、どのように投資調査に取り組んでいくのかについて、急激な変化が見られます。中国などでの規制の強化だけでなく、アジア太平洋地域の投資家は運用のリスク管理にESG 分析を活用し、気候変動などの地球規模のサステイナビリティの問題を潜在的な投資機会と捉えて、自身のポートフォリオを再構築しています」とウォン氏は述べている。
債券市場の流動性のパラドクスに対処に役立つ新しい投資アプローチ
投資家は、景気拡大局面の後期において、流動性の低い資産クラスへの配分を拡大してきた。しかし、半数以上 (51%)の投資家は債券市場の流動性に対する懸念を表明しており、ドッド・フランク法などの規制導入や、世界的 な金融危機に続く伝統的なマーケット・メーカーの撤退などによる、より厳しい環境における債券市場の見通しに懸念を抱いている。 これを受けて、流動性を改善し市場リスクの削減に役立つETFのブロック・トレード(投資家の59%が 利用)、クレジット・ポートフォリオ・トレード(同 30%)、特定の残存期間の債券に投資する固定満期戦略(同56%)などへの関心が高まっている。
「新型コロナウイルス感染拡大によってもたらされた米国経済の突然の停滞により、債券市場では、流動性と規制上のハ ードルが引き続き懸念されています。我々の調査は、過去と現在の懸念を念頭に置きながら、これらの制約を抑えるため、 満期保有戦略により流動性プレミアムの取得に注力する投資家が増えている傾向を示しています。確定拠出年金基金 の担当者の 72%、保険会社の 66%を含め、56%の投資家がこれらの戦略を利用していることが明らかになりました」 とワルドナー氏は述べている。
新型コロナウイルスによる市場混乱前における投資家の警戒感の高まりについて
2020 年第 1 四半期に新型コロナウイルス感染拡大による市場の混乱に先立ち、債券投資家はリスク回避姿勢を強めている傾向にあった。半数近く(43%)の投資家が、記録的な長い景気拡大期の終焉は 1 年以内に起こると考え、それをソフトディングと予想していた。ただし、23%のみの投資家が債券市場をバブルと認識しており、債券価格の大幅な暴落を恐れていたのはわずか 29%だった。中央銀行による金融緩和が低金利やマイナス金利をもたらしたことで、投資家は運用目標を達成するために追加的なリスクをとる動きもみられた。インベスコの調査では、将来の損失、 大損失の不安に悩まされている投資家の姿が見うけられた。インベスコによると、景気サイクルの後半でリスクを高める行動は見られたものの、景気サイクルの位置取りと貿易戦争への懸念が、今日の市場に影響を与えている、かつてない外生的ショックから身を守るポートフォリオへの移行を即していたのかもしれない。
「こうした警戒感の背景の1つは、クレジット・スプレッドが縮小しているという投資家の見方があったでしょう。新型コロナウ イルス感染拡大の市場への影響を踏まえると、景気悪化を予想して予防的な行動をとっていた回答者は、今、胸をなで おろしているかもしれません。しかし、この警戒感は全ての投資家に共通していたものではなく、消費財、自動車、石油・ ガス、旅行といった、以前は優良と考えられていた資産からの非常に大きな資金シフトが、足元で起きているのも事実です」とワルドナー氏は指摘している。