インベスコは、 グローバル投資家の中国投資に関する調査「チャイナ・ポジション2021」を2021年9月30日に発表した。 この調査によると、 世界の投資家の多くが、 過去12カ月間に中国への投資を増加もしくは維持したことが明らかになった。
チャイナ・ポジション2021概要
- 5割の回答者が過去12カ月間に中国への投資を増加。 6割強が今後12カ月間でさらに増加する見通し
- 過半数の回答者が、 先12カ月間の中国の経済状況は世界全体と比較して良好と予想
- COVID-19と米中貿易摩擦により、 回答者は中国投資におけるリスク資産への選好を高める
- テクノロジー分野やオルタナティブ資産への関心が高まる
- 6割強の回答者は中国への投資を通じてESG投資を実施。 3分の2が、 ESG目標の達成のために中国への資産配分を増加
この調査は、 北米、 アジア太平洋、 欧州、 中東地域の200の機関投資家を対象に調査したもので、 2021年6月から7月にかけて実施された。 回答者の86%が、 中国への投資が過去12カ月間に増加または維持したと回答し、 また64%は今後12カ月間にさらなる増加を見込んでいると回答した。 一方で、 減少すると回答したのはわずか12%にとどまった。
インベスコの中国A株運用のビジネス・ストラテジー&デベロップメント責任者であるチン・ピン・チア氏は、 次のように述べている。
世界の投資家の中国への投資心理は、 過去12カ月間ほぼ安定しています。 パンデミック(新型コロナウイルスの世界的な大流行)下の2020年において、 中国は経済成長率が上昇した世界で唯一の主要経済国です。 地政学的緊張や中国の規制当局の動向にもかかわらず、 中国が持続可能な経済成長の実現に向けて産業政策を調整しており、 同国のマクロ経済は堅調な成長が続くと予想されます。 我々は、 中国経済が進化と変革を続ける中で、 世界の投資家は長期的な中国投資の必要性とその恩恵を認識していると考えています。
回答者の過半数(60%)は、 今後12カ月の経済状況について、 世界経済よりも中国経済に対してより良い期待を持っているとしている。コロナ禍において経済行動や金融市場が様変わりした一方で、 投資家の中国投資に対する戦略的見通しや投資機会についての考えには変化が見られなかった。回答者の半数以上(54%)が、 パンデミックにより中国投資におけるリスク資産への選好が高まったと考えている。
米・バイデン政権下での米中貿易摩擦による地政学的不確実性の長期化が、 中国への資産配分の引き上げに「中程度」または「かなり」の影響を与えているとした回答者は80%に上った。 これは、 2019年の調査で回答者の44%が投資判断に「マイナス」の影響があると回答したものとは対照的な結果となった。
オンショア有価証券は依然として最も人気があり、 オルタナティブやテクノロジー分野への人気も加速
アセットクラスの選択に関しては、 中国オンショア株式(52%)が依然として最も人気のある資産クラスであり、 次いでオンショア債券(51%)、 H株および米国上場のADRを含むオフショア株式(50%)と続いている。 この結果は、 2019年の調査と同様の傾向となった。
流動性の低い資産クラスについては、 低金利環境の継続による債券市場への影響や株式市場におけるボラティリティの継続から、 引き続き投資家の関心が高く、 この傾向は中国投資にも反映されている。今後12カ月間で資産配分の引き上げを計画している資産クラスとしては、 不動産(40%)、 企業への直接投資39%)、 その他のオルタナティブ資産(38%)が上位となった。 一方で、 中国オンショア株式(37%)と答えた回答者は、 2019年の調査(52%)から減少した。
中国における最近の規制改革によりテクノロジーセクターのボラティリティが高まっているが、 この調査では、 投資家はテクノロジーセクターへの投資を継続していることが明らかになっている。 テクノロジー・イノベーション (49%)、 金融サービス(44%)が2019年調査から引き続いて人気の高い投資テーマであり、 ヘルスケア(27%)、 国内消費(26%)も関心を集めている。 テクノロジー分野の中では、 人工知能または関連するデジタルオートメーション(39%)、 5G(32%)、 消費者またはB2B向けのオンラインサービス(31%)が注目されている。
チン・ピン・チア氏は次のようにコメントしている。
中国はすでに世界で最も洗練されたデジタル経済の1つです。 中国はこの分野でさらに前進するという野心を持っており、 第14次5カ年計画でイノベーション大国を目指すことを掲げています。 我々は、 昨今の規制当局による精査が健全な競争を促進し、 インターネット分野におけるより持続可能な競争を支え、 中国はイノベーション大国への歩みを進めることになると予測しています。 世界経済における中国の影響力がさらに高まるにつれ、 長期投資家が新しい経済テーマに連動した中国への投資による恩恵を得る可能性は高いでしょう。
投資家は中国を新興国の一部とみなさず、 市場の透明性に対する懸念は依然として残る
中国への資産配分がポートフォリオのより大きな部分を占めるようになるにつれ、 投資家は新興市場から中国を切り離すようになっている。 回答者の半数以上(54%)が中国市場単体への投資を行っていると回答しているのに対し、 新興市場やアジア市場を中心とした投資など、 より広範な投資を行っている投資家は40%にとどまった。 中国市場単体へ投資する主な目的として、 全体的なポートフォリオの効率性の改善(48%)、 特定のセクターにおける投資機会(46%)、 中国の長期的な経済成長への投資(45%)が挙げられた。
投資家にとって中国が魅力的な投資先となる要因としては、 中国経済の成長と拡大のポテンシャルや上場企業収益への期待(35%)、 中国国内の金融仲介業者の質の向上(35%)が上位に並んだ。 そのうち、 金融仲介業者に対する信頼感は、 2019年調査(27%)から大きく向上した。
一方で中国投資における主な課題として、 コーポレート・ガバナンスと透明性の問題が挙げられており、 企業報告に対する信頼の欠如(38%)、 規制の透明性の低さ(38%)、 海外投資家に対する中国の金融システムの不透明性(33%)などが挙げられた。 また回答者の約3分の1は、 依然として中国市場に対する専門知識が不足していると考えている。
ESGが中国への投資を後押しする要因に
世界的にも中国においても、 ESG要素を投資プロセスに組み込む傾向が強まっている。 中国投資を考慮する際にESG投資を「常に」あるいは「しばしば」採用していると回答した投資家は62%となった一方、 「ほとんど」あるいは「全く」採用していないと回答したのはわずか8%だった。 また、 ESG目標の達成のために中国への投資を増やしたと回答した投資家は66%となり、 中国政府や企業もESGを徐々に重視していることが投資の増加につながっている。
一方で、 透明性に関する問題は、 依然として考慮すべき重要事項となっている。 主な懸念事項としては、 ESG情報の開示の範囲や基準を満たす中国の株式や債券の発行体の数が少なすぎること(28%)、 中国における株式または債券の発行体からのESG関連データが容易に入手できないこと(25%)、 中国における株式または債券の発行体からのESG関連データの検証が非常に困難なこと(12%)が挙げられた。 機関投資家にとってESG情報開示の改善は重要な事項であり、 中国の債券または株式発行体によるESG情報開示の改善が中国への投資を増やす要因となると回答した投資家は23%となっている。
チン・ピン・チア氏は本調査の結果について、 次のように述べている。
中国のESG情報の開示と報告基準はまだ初期段階にありますが、 企業と投資家双方のESG問題に対する認識の高まりにより、 過去5年間で急速に改善しました。 また、 中国政府は、 カーボン・ニュートラルなど、 今後の気候変動の緩和において重要な役割を果たす決意も示しています。 中国のESGと気候変動に対する取り組みは、 中国の投資環境に大きな変革をもたらし、 企業運営をも変えていくことになるでしょう。
「チャイナ・ポジション 2021」の全文(英語)→https://www.invesco.com/invest-china/en/institutional/expert-study.html