ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムは2019年10月30日、 世界のGDPの98%に相当する114カ国を対象に新しいタイプのインデックスを導入したと発表した。世界経済を席巻する新たな破壊的要因に対する競争力を測定する初めてとなる新たなベンチマークで、 『ニューエコノミーの促進要因と破壊的要因に関するレポート(The New Economy Drivers and Disrupters Report)』と題するレポートの中で紹介されている。破壊的要因には自動化、 デジタル化、 気候変動、 保護主義、 ポピュリズムが含まれる。
ブルームバーグ・エコノミクスのチーフ・エコノミスト、 トム・オーリック氏は次のように述べている。
ニューエコノミーでは、 競争力を測定する従来の方法によって全体像を掴むことはもはやできません。 保護主義から気候変動に至る新たな破壊的要因は経済成長の仕組みに関する想定を覆し、 勝者と敗者のパターンを塗り替えようとしています。 このレポートは各国経済が直面する障害を明らかにし、 どの国が成功を収める立場にあり、 どの国がそうでない立場にあるかを示しています。
ブルームバーグでは、ニューエコノミーとは欧州・北米の伝統的な経済国から、アジア・アフリカ・中東・中南米の新興国への世界的な経済力のシフトを指すと定義している。前述の「ニューエコノミーの促進要因と破壊的要因に関するレポート」は、勢力のシフトに伴って生じる複雑な課題を明らかにした上で、ニューエコノミーは新たな破壊的要因に対処する上で脆弱な立場にあると結論付けている。ブルームバーグは、「『追いつく』というプロセス(ここでは過去50年間の世界経済を低所得国が高所得国との差を縮めるプロセスとして定義)はいまだ続いており、 今後、 状況はさらに複雑になっていくでしょう」と述べている。
『ニューエコノミーの促進要因と破壊的要因に関するレポート』の主なポイントは以下の通り。
- 中国のさらなる発展はこれまでよりも厳しいものになる見通し。
発展を促す伝統的な促進要因に関して言えば、 中国は大半の国々よりも優れています。 インフラの急速な近代化、 教育の向上、 研究開発投資に支えられ、 中国は全体で第4位、 新興国の中でトップの座にあります。 一方、 世界経済を塗り替える保護主義から気候変動に至る破壊的要因に関しては、 中国は第50位と、 伝統的な促進要因に比べてはるかに低い順位にあります。
- 経済的機会の点で、 現在、 インドは中国の発展初期段階に似た様相。
良好な人口動態と広範にわたる改革政策は急成長を促す可能性を秘めています。 ただし、 急速な発展を阻む障害もあります。 インドは第80位と、 中国よりも破壊的要因の影響をさらに受けやすい立場にあります。 破壊的変化が進む時代では、 発展に乗り遅れた国々は追いつく過程で一段と困難な局面に見舞われるでしょう。
- ベトナムとアジアの第4の波
アジアでは、 輸出が繁栄を促進してきました。 まず日本、 次いで韓国、 そして中国が低い人件費を活用して世界市場でシェアを獲得することによって成長を遂げてきました。 ベトナムは発展の第4の波に乗る潜在性を備えています。 ただし、 世界で保護主義的傾向が高まるなか、 輸出を通じて繁栄への道を歩むのは一段と困難になりつつあります。 破壊的要因では、 ベトナムは第73位にランクされています。
- 緩慢なBRICS諸国
10年以上にわたりBRICS諸国(ブラジル、 ロシア、 インド、 中国、 南アフリカ)は新興国にとっての希望を体現してきました。 ブルームバーグのインデックスでは、 BRICS諸国は中国を除き、 まだ潜在力を発揮し切っていません。 発展を促す伝統的な促進要因を最適化するためにやるべきことが残されている中で、 BRICS諸国はニューエコノミーにおいて今後もたらされる破壊的要因を管理する際にさらなる困難に直面するとみられます。
- 先進国にとっての破壊的要因
主要先進国では、 破壊的要因に対して適切な政策対応を取るかどうかは、 繁栄を延長させるか、 それとも経済成長を落ち込ませるかの分岐点となります。 英国では、 世界最大の貿易圏との関係を断ち切る代償が今後10年間でGDPの7%に上る恐れがあります。 米国では、 移民による労働力の強化と貿易による生産性の向上が今後10年間で2.7%の年間GDP成長率を後押しする可能性がありますが、 それらの要因なしでは成長率が1.4%まで落ちるとみられています。 ドイツとシンガポールは高所得国における破壊的要因を管理する能力を示す格好の見本です。 ドイツでは強力な制度と高学歴の労働力がリスクに対する防波堤となっています。
『ニューエコノミーの促進要因と破壊的要因に関するレポート』について
レポートは2つの指標に基づき114カ国を評価している。一つ目の指標は発展を促す伝統的な促進要因を捉え、二つ目の指標はニューエコノミーにおいて新たなリスクと機会を生み出す破壊的要因に対するエクスポージャーを捉えている。促進要因は生産性、 労働力の伸び率予測、投資の規模と質を総合的に評価する指標、ならびに発展の最先端からの距離を示す指標で構成されている。破壊的要因はポピュリズム、 保護主義、 自動化、 デジタル化、 気候変動と関連付けた各国の立ち位置を評価する。
インデックスは、 ブルームバーグのエコノミストであるトム・オーリック、 スコット・ジョンソン、 アレックス・タンジ氏が公表情報・学術的情報・市場情報から得たデータを活用して開発した。 ノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンス氏はこのレポートに関する助言を提供した。
このレポートには他国と比較した各国の立ち位置のほか、促進要因と破壊的要因の指標に基づく順位を示す、インタラクティブなデータ可視化グラフィックスを掲載している。ケーススタディでは、 以下の項目が取り上げられている。
- 「貿易戦争の希少な勝者であるベトナムはその恩恵を引き続き確保するのに苦戦」
- 「中国のマイクロローン(小口融資)は小規模企業に門戸を開く – そして債務は拡大」
- 「ザンビアは気候変動の影響で電力危機に直面」
- 「ポーランド企業は労働者確保で窮地に陥る」
ケーススタディの続編はニューエコノミー・フォーラムが開催されるまで毎週公表される予定。
『ニューエコノミーの促進要因と破壊的要因に関するレポート』は、 ブルームバーグ・エコノミクスがニューエコノミー・フォーラムのために独自に作成した。このフォーラムは、ブルームバーグと中国国際経済交流センター(CCIEE)との共同主催で2019年11月20日~22日に北京で開かれ、官民の連携と行動を促すため、大きな影響力を持つ世界60カ国以上のビジネスリーダーと政府高官が一堂に会する。中国に招聘されるニューエコノミーのリーダーは、ニューエコノミーに対する破壊的要因を取り上げ、 変化をもたらす有効な解決策を引き出す。