JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社は2019年12月16日、60資産の超長 期見通しと期待リターンについてのレポート「Long-Term Capital Market Assumptions」(以下、LTCMA)の2020 年版を発表した。
LTCMAは、J.P.モルガン・アセット・マネジメントが今後10~15年のマクロ経済の見通しに基づき、60の資産クラス や投資戦略について期待リターン、想定ボラティリティ、相関係数を算出した年次レポートで、今年で24回目となる*1。
同レポートは、債券、株式からオルタナティブまで幅広い資産クラスや投資戦略において、具体的かつ透明性の 高い形で期待リターンを算出している。例えば、債券については、今後の金融政策を予想した上で、先進国国 債のみならず、社債や新興国債券など様々な種類の債券の長期期待リターンを算出している。また、株式で も、マクロ経済および各国の企業業績の見通しをもとに構築した算出プロセスで期待リターンを算出している。
2020年版LTCMAにおける超長期見通しの主なポイントは以下のとおり。
今後10~15年の実質成長率見通しは下方修正に。中国の成 長率鈍化が影響。
世界全体の今後10~15年の実質GDP成長率見通しは、年率 2.3%と、昨年対比で20bps(ベーシス・ポイント)下方修正された。先進国の実質GDP成長率見通しは昨年と同様1.5%だが、新興国は35bps下げて3.9%と予想している。J.P.モルガン・アセット・マネジメントでは、この理由は主に、成熟期に突入した中国経済の成長率の鈍化によるものと考えている。
株式の期待リターンの見通しは昨年比で若干上向き。将来的 にはeコマースの普及により引き上げの可能性も。
株式に対する見通しは、バリュエーションの改善で若干上向きと なり、日本株式の期待リターンは昨年5%から5.5%となった。先進国株式、新興国株式もそれぞれ昨年対比で上昇している (下テーブル参照)。将来的には、eコマースが企業の生産性を高め、利 益率向上に寄与することで、株式の長期リターン見通しが更に引 き上がる可能性があると予想しています。
主要資産クラスの今後10年~15年の期待リターン*2 (抜粋、年率、円ベース)
2020年版 LTCMAで の予想値 | 2019年版 LTCMAで の予想値 | |
日本国債 | 0.30% | 0.75% |
日本大型株式 | 5.50% | 5.00% |
米国ハイ・イールド債券 (為替ヘッジあり) | 3.40% | 3.75% |
先進国国債 (除く日本・為替ヘッジあり) | 0.30% | 1.25% |
先進国国債 (除く日本・為替ヘッジなし) | 0.90% | 1.25% |
先進国株式 (除く日本・為替ヘッジなし) | 4.50% | 4.00% |
新興国株式 (為替ヘッジなし) | 7.50% | 6.75% |
米国コア不動産 (為替ヘッジなし) | 4.10% | 4.00% |
注: 2018年9月30日時点と2019年9月30日時点の比較。
長引く低金利環境により、債券の期待リターンに厳しい見通し。これまでの金融緩和政策の限界か。
低インフレ・低金利環境が当面も長引くと見られることから、債券の期待リターンは大幅に下方修正され、日本国債は昨年の期待リターン 0.75% から 0.3%と低下した。一方、比較的デュレーションが短い米国ハイ・イールド債券(為替ヘッジあり)の期待リターンは 3.4%と、債券の中では相対的に高い水準を維持している。全体的な債券 の厳しい見通しは、これまで行われてきた金融緩和政策に限界がみられることを示唆している。
長期の「安定資産」としてのオルタナティブ。
オルタナティブ資産のひとつである米国コア不動産(為替ヘッジなし)の期待リターンは昨年の 4%から 4.1%と若干上昇した。これは、世界株式 60%と先進国国債(為替ヘッジあり)40%を組み合わせたバランス・ポートフォ リオから得られる期待リターン 3.4%を上回る予想(期待リターンは全て円ベース)。実物資産は 2007 年~ 2008 年の金融危機を除けば、大半のストレス期間ではディフェンシブな特徴を示し、安定したリターン実績を積み 重ねている。J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、これまで安全資産と呼ばれてきた債券のリターン獲得が難しくなった現在、より強固で安定的な収 益の獲得が期待されるオルタナティブ(実物資産)への投資も選択肢のひとつとして有望だと考えられるとしている。
これまでに前例の無い、構造的な変化を迎えつつある金融市場。
今後 10~15 年間の世界経済は、全体的に低位安定した動きが続くと予想している。しかしながら、一部の資産 においては、今までの常識では当てはめられない動きが出てきている。従来型の金融緩和政策が効果を発揮しない債券市場、e コマースなどテクノロジーの進化によって利益率向上が予想される株式市場、そして、安全資産としてのオルタナティブの台頭など。また、成長期から成熟期に突入した中国も大きな変革期にあると考えられる。J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、「これらの状況を踏まえると、今後の金融市場は、これまでの前例や常識が通用しない、構造的な変化の 時代を迎えることが予想されます」と述べている。