がんとたたかう投信の概要 #
2019年7月に「がんとたたかう投信」という非常に目を引く名前の投資信託が設定されました。正式名称は「東京海上・がんとたたかう投信(為替ヘッジなし)(年1回決算型)」と「東京海上・がんとたたかう投信(為替ヘッジあり)(年1回決算型)」で、運用会社は東京海上アセットマネジメント株式会社です。
医療に関連する事業を行なっている企業の株式に的を絞って投資する医療関連株式ファンドはこれまでも複数運用されてきましたし、現在でも運用されています。また、「野村ACI先進医療インパクト投資」のように先進医療の研究開発等を行なっている企業に投資する投資信託もありますが、「がん」という特定の疾病に的を絞った投資信託は、日本では初めて設定されました。
ファンドの詳細は次の投信協会のサイトで閲覧できます。
投資対象:がんとたたかう企業とは #
「東京海上・がんとたたかう投信」は、「がんとたたかう企業(がん関連企業)」に的を絞ったテーマ型の投資信託で、世界中の医療関連企業へのグローバル株式ファンドです。同ファンドでは、「がんとたたかう企業」を次のように説明しています。
- がんの治療・診断・研究等に関連する事業を行う企業。
- 革新的な技術やアイデアを持ち、「がん治療」の進歩に多大な貢献(インパクト)を及ぼす可能性の高い企業。
ファンドの運用形式 #
「がんとたたかう投信」は、ファンド・オブ・ファンズ形式で運用されます。投資対象となるファンドはベルギーに本拠地を置くカンドリアム・ベルギー・エス・エー社が運用する「カンドリアム・エクイティーズ・L・オンコロジー・インパクト(Candriam Equities L Oncology Impact)<ルクセンブルグ籍・円建て>」です。「エクイティーズ」は株式、「オンコロジー」は癌などの腫瘍の原因や治療について研究する学問を意味しています。
カンドリアム・ベルギー・エス・エー社は、がんとたたかう投信と同じ運用方針で「Candriam Equities L Oncology Impact」(ルクセンブルグ籍、SICAV、ドル建て)を2018年から運用しています。がんや腫瘍に特化した研究に取り組む企業への投資を通じ、分野全体の発展に寄与することを目的としています。
インパクト投資としての意義 #
「がんとたたかう投信」では、がん関連企業への投資に加え、投資家の運用報酬の一部が日本のがん研究団体に寄付される仕組みが取り入れられています。こうした取り組みにより、投資収益の追求だけでなく、がんという社会的課題の解決にも貢献できるインパクト投資となっています。
2024年2月の運用報告書によると、2022年7月1日から2023年6月30日までの期間に、京都大学医学部附属病院および弘前大学へ各65万円が寄付されました。
また、欧州の投資家向けにカンドリアム社が運用する同じ投資方針のファンド「Candriam Equities L Oncology Impact」では、運用報酬の10%を欧州のがん研究機関に投資しています。(http://www.funds-europe.com/news/equity-fund-fights-cancer-with-investments-and-donation)
テーマ型ファンドのリスク #
「がんとたたかう投信」のようなテーマ型投資信託には、いくつかのリスクが伴います。以下に代表的なリスクを挙げます。
1. 市場リスク
がん関連企業への投資は、医療・バイオテクノロジー分野に大きく依存しているため、この市場全体の変動や業界固有のリスクに影響を受けやすい傾向にあります。例えば、医薬品承認の遅延や研究開発の失敗が起こった場合、関連株価が大きく下落する可能性があります。
2. 為替リスク
「為替ヘッジなし」の場合、外国の株式を投資対象としているため、為替相場の変動がファンドの基準価額に直接影響を及ぼします。円安の場合は利益になる可能性がある一方、円高になると投資価値が目減りするリスクがあります。
3. 流動性リスク
特定の企業(がん関連企業)に集中投資するため、流動性リスクが生じる場合があります。市場で取引が少ない銘柄に投資していると、売却が困難になる場合や市場価格に影響を与える可能性があります。
4. 分散リスク
テーマ型ファンドは特定の業種やテーマに集中するため、一般のインデックスファンドや分散型ファンドに比べてリスクが高くなる可能性があります。がん関連企業だけに投資することで、他の業界への分散が不十分になる点に注意が必要です。
5. 政治・規制リスク
医療業界は政府や規制機関の影響を受けやすく、特に医薬品の開発や販売に関する規制が強化されると、収益性に大きな影響を与える可能性があります。がん治療や診断技術に対する規制が厳しくなった場合、関連企業の業績や株価に悪影響が出ることがあります。
これらのリスクを理解し、ファンドの特性に合った投資目的を持つことが重要です。
がんとたたかう投信のまとめ #
「がんとたたかう投信」は、がんという深刻な社会課題に正面から向き合い、投資収益と社会貢献を両立するインパクト投資の先駆けとなるファンドです。このファンドに投資することは、がん研究の支援を通じてがん治療の発展に寄与することにもつながります。がん関連分野に対する興味や社会的責任を持つ投資家にとって、大きな意義を感じられる投資信託です。しかし、テーマ型投信は特定の分野に集中して投資するため、相場の変動や医療技術の進展に影響されるリスクがあります。