アクティビスト・ファンド #
アクティビスト・ファンドは、上場企業の株式を大量に取得し、株主としての権限を活用して、配当の増額、取締役の交代、合併、自社株買いなどを企業に要求し、それによる企業価値の向上と株価の上昇によるキャピタルゲインの獲得を目指すファンドのことです。物言う株主として極めて積極的に株主権利を行使し、利益の獲得を目指します。株主として企業に対して具体的な提案を行い、企業価値の向上と株主利益の最大化を追求します。
アクティビスト・ファンドのアクティビストは英語のactivistのことで、活動家と訳されます。
世界のアクティビスト・ファンド #
世界のアクティビストの活動を調査・分析をしているDiligent Market Intelligence社 によると、世界で最も影響力のあるアクティビスト・ファンドの上位10ファンド(2022年)は次の通りです。Diligent Market Intelligenceでは、ファンドの数、規模、パフォーマンス等、様々な要因を総合的に判断してランキングを公表しています。詳細は同社のレポート「The Shareholder Activism Annual Review 2023」をご覧ください。
順位 | 運用会社 | 2022年に公に要求の対象となった企業数 |
---|---|---|
1 | Elliott Management | 9社 |
2 | Carl Icahn | 7社 |
3 | Saba Capital Management | 8社 |
4 | Ancora Advisors | 10社 |
5 | Nippon Active Value Fund | 13社 |
6 | Crystal Amber | 3社 |
7 | ValueAct Capital Partners | 4社 |
8 | Jana Partners | 4社 |
9 | Engine Capital | 6社 |
10 | Starboard Value | 5社 |
日本におけるアクティビスト・ファンド #
日本でも、ブルドックソース、アデランス、サッポロの株式を取得した米国のアクティビスト・ファンドであるスティール・パートナーズや村上ファンドの名前は折に触れマスコミを賑わしてきました。
また、金融庁が2017年11月に発表した「ファンドモニタリング調査の集計結果について」によると、プロ向けファンドの中にアクティビスト・ファンドが5本含まれており、その運用残高は217億円だったということです。日本においても、アクティビスト・ファンドが存在していることがわかります。
投資信託について #
一方、投資信託は、株主総会の投票行動において意思表示を行ったり、経営陣に対して意見を述べたりすることはありますが、法律による制限があるため、アクティビスト・ファンドのように特定の企業の株式を強い影響力を行使できるほど大量に保有することはできません。
投信法では、一運用会社が運用するすべての投資信託が保有する、一企業の株式に係る議決権の数が、一企業の議決権総数の50%を超えることとなる場合は、その企業の株式の取得をしてはならないと定められています。
また、一般社団法人投資信託協会の規則でも、「信用リスク集中回避のための投資制限」が定められていて、特定の銘柄の純資産総額に対する比率が制限されています。
さらに、各ファンドにおいても、リスク低減の観点から、約款において投資制限を設けており、特定企業の株式をアクティビスト・ファンドのように大量に保有することで株主権利を駆使して極めて積極的に経営に関与することはありません。
しかし、アクティビストとは名乗らないものの、エンゲージメントに力を入れる投資信託は増えています。スチュワードシップ活動の一環として、エンゲージメントを行い、企業に情報開示や取締役会の構成を含むコーポレートガバナンス変革を求めています。一部の運用会社はエンゲージメントの実績をホームページで公表しています。
その中で、「アクティビスト」であることを明確に謳った投資信託が2020年に登場しました。マネックス・アセット・マネジメントが運用する「マネックス・アクティビスト・ファンド(愛称:日本の未来)」です。
マネックス・アクティビスト・ファンド(愛称:日本の未来) #
同ファンドは、運用方針に次を掲げています。
- 個別企業の分析を重視したボトム・アップ手法による銘柄選択を行い、エンゲージメントを目的として、比較的少数の銘柄に投資する。
- 潜在的企業価値に対して、株価が著しく安価に放置された企業を中心とする。
- 企業分析では、経営戦略、事業モデル、経営陣の質、財務状況など、財務面と非財務面(環境・社会・ガバナンスなど)からの観点を統合的に取り入れる。
- 最終受益者を含む様々な関係者との対話を通じて企業価値と株主価値の中長期的な向上を目指す。
- 徹底した個別企業分析(ボトムアップアプローチ)によりエンゲージメント対象銘柄を厳選し、少数銘柄へ投資する。
- 個別銘柄の選定、ウェイト、売買にあたっては、カタリスト投資顧問株式会社より助言を受ける。
- マネックス証券創業者であり、マネックス・アセット・マネジメントの会長、カタリスト投資顧問の会長でもある松本大氏が投資先企業の経営陣、取締役会メンバーとの対話をリードする(2024年11月現在)。
マネックス・アクティビスト・ファンドは、投資信託協会規則の「信用リスク集中回避のための投資制限」に定められた、ファンド純資産総額に対する比率(10%)を超えて、特定の発行体の発行する銘柄に集中して投資する運用をとる特化型運用ファンドです。信託報酬率は年率2.2%(税込)で、これに加えて成功報酬が徴収されます。
米国の投資信託 #
日本の投資信託会社よりも積極的な株主であると言われている米国の投資信託会社の場合も、アクティビスト・ファンドのように特定の銘柄を大量の保有することはしませんが、日本の運用会社よりは積極的な株主としての要求を行います。
例えば、2018年3月8日のステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ社(SSGA)のプレスリリースによると、同社は、米国、英国、オーストラリアに本社を置く投資対象企業を調査した結果、取締役会に女性役員が全くいない企業が700社以上も存在することを確認したため、それらの企業に対して、直接の対話、書面による要請、または株主総会での議決権行使という形で、取締役会ダイバーシティに取り組むよう要請しました。また、その点について前進が見られなかった500社以上に対して、SSGAは最終的に株主総会で企業提案議案に反対票を投じたということです。
また、米国の投資信託(ミューチュアル・ファンド)は、議決権行使についての方針を策定・開示しています。さらに、保有銘柄における議決権の投票行動について開示することが義務付けられており、米国証券取引委員会が運営するデータベース「EDGAR」のPROXY VOTING RECORD(議決権行使レコード)で誰でも閲覧することが可能です。
アクティビスト・ファンドが、ファンドの投資家の利益のためだけに積極的に経営に関与しようとするのに対し、米国の投資信託の運用会社は、ファンドの保有者のみならず、社会的責任投資の観点から物言う投資家として行動していると言えます。
アクティビスト・ファンドのまとめ #
アクティビスト・ファンドは、企業の株式を大量に取得し、株主としての権限を行使して企業の経営改善やガバナンス改革を促し、企業価値の向上と株価の上昇を目指すファンドです。物言う株主として、配当増額や取締役交代などを企業に提案し、株主利益の最大化を追求します。日本でもスティール・パートナーズや村上ファンドが代表的な存在で、近年は投資信託もスチュワードシップ活動に取り組むなど、幅広い投資家が企業と積極的な対話を行うようになっています。