繰上償還 #
繰上償還とは、あらかじめ決められていた「運用期間」が満了する前に投資信託の運用が終了してしまうことです。
例えば、2020年10月15日に信託期間10年で設定された投資信託を考えてみましょう。この投資信託は本来なら設定から10年後の2030年10月14日に満期償還を迎えますが、このファンドがこの2030年10月14日の償還予定日よりも前に運用を終了することを繰上償還と言います。
信託期間が「無期限」となっていた投資信託が、運用を終了してしまうことも繰上償還です。
繰上償還の理由 #
運用残高の減少 #
繰上償還が行われる理由で最も多いのは、ファンドの資産総額が非常に小さくなった場合です。ファンドの資産が小さくなりすぎると、運用方針にそった運用を行うことができなくなってしまいます。その場合、運用会社は、信託銀行と合意のうえ、運用を終了させることができます。
各投資信託は、目論見書の中に「ファンドの繰上償還」について定めており、口数がいくら以下になったら、あるいは純資産総額がいくら以下になったら繰上償還する可能性があることを記しています。
例えば、次のような記載です:
- 受益権口数が10億口を下回った場合等は、償還となる場合があります。
- 委託者は、信託契約の一部解約により受益権の口数が10億口を下回った場合またはこの信託契約を解約することが受益者のため有利であると認めるとき、もしくはやむを得ない事情が発生したときは、受託者と合意のうえ、この信託契約を解約し、信託を終了させる場合があります。この場合において、委託者は、あらかじめ、解約しようとする旨を監督官庁に届け出ます。
一般に純資産総額が10億円、10億口、15億円、15億口、30億円、30億口を下回った場合に、繰上償還するという条項が多いといえます。
その他の繰上償還の理由 #
この他にも次のような繰上償還の理由がありますが、これらはごく稀にしか発生しません。
- 信託契約を解約することが受益者のため有利であると認めるとき
- やむを得ない事情が発生したとき
- 監督官庁より委託者がこの信託契約の解約の命令を受けたとき
- 委託者が監督官庁より登録の取消を受けたとき、解散したときまたは業務を廃止したとき
繰上償還までのプロセス #
運用会社は、ファンドの繰上償還条項に従い信託を終了させる(繰上償還する)場合は、次のようなプロセスを踏みます。
- 社内および信託銀行との間で信託終了を判断
- 信託契約を解約しようとする旨を公告または受益者に対して書面を交付
- 受益者で解約(繰上償還)について、異議のある人は一定期間内に委託者に異議を述べる
- 一定期間内に異議を述べた受益者の受益権の口数が受益権の総口数の二分の一を超えるとき→信託契約の解約を行わない(繰上償還しない)→解約しない旨およびその理由を公告し、かつ、これらの事項を記載した書面をこの信託契約に関係する受益者に対して交付
- 一定期間内に異議を述べた受益者の受益権の口数が受益権の総口数の二分の一を超えないとき→繰上償還の決定→監督官庁への届出および受益者への告知
- 信託終了日(繰上償還日)と償還金支払開始日の告示
- 繰上償還
繰上償還はリスクである #
繰上償還は投資家にとってはリスクです。
繰上げ償還が決定されると、基準価額が購入した時点より値下がりしていようが、値上がりしていようが、ファンドは償還されてしまいます。
繰上償還時の基準価額が、購入した時よりも低い場合、投資家は損失を実現せざるをえなくなります。将来、基準価額が回復することを期待して保有していた人も、損失を実現せざるをえません。
繰上償還時に利益が出ていれば、利益を確定して、税金を支払うことになります。
いずれの場合でも、投資家は、時間をかけて決定した資産形成の計画を見直さざるをえなくなります。
繰上償還を回避するためにできること #
繰上償還を完全に回避することはできませんが、できるだけ回避するために投資信託を選択する際に、次の2点に注意して下さい。
- 資産総額の小さいファンドは避ける
- 資産総額の減少が続いているファンドは避ける
資産総額が小さいファンドを避けるのは、資産規模が小さいと効率的な分散投資が行えないという理由に加え、上記で説明したように規模が小さいことを理由に繰上償還のリスクがあるためです。過去10年以上にわたり繰上償還の最も多い理由は資産規模が小さいという理由です。
また、資産総額の減少が続いているファンドについても、いずれ規模が小さくなり、約款で定める繰上償還理由に当てはまってしまう可能性があるため、避けた方がよいでしょう。資産総額の減少が続いている場合は、何か理由があるはずです。運用会社に問い合わせることも大切です。
投資信託の繰上償還のまとめ #
繰上償還とは、投資信託が予定されていた運用期間を満了する前に運用を終了することです。主な理由は資産総額の減少で、ファンドの効率的な運用が困難になる場合に発生します。繰上償還は投資家に損失リスクや計画変更を迫る可能性があり、資産総額が小さいまたは減少傾向のファンドを避けることが重要です。