エンゲージメント #
「運用会社が投資対象会社に対してエンゲージメントを行う」、「企業の情報開示に基づく定量評価以上に、企業に対するエンゲージメントが重要である」「運用会社のエンゲージメント活動」など、投資の世界で「エンゲージメント」という言葉を聞くことが増えてきました。投資信託をはじめとする運用業界においおいてエンゲージメントとはどのようなものなのでしょうか。
英語のエンゲージメント(engagement)には従事、関与、参加、熱意、約束、婚約という意味があります。投資の世界において「エンゲージメント」とは投資する側と投資される側の「関わり」「対話」のことです。
ただし、対話といっても、単純に、ファンドマネージャーが企業の経営陣や財務担当者に取材を行うという、いわゆるファンドマネージャーによる会社訪問とは異なります。エンゲージメントは、環境的課題、社会的問題、ガバナンスに関する問題といったESG(環境、社会、ガバナンス)の要素について、投資家と企業の間で長期的に活発かつ建設的な対話を行い、企業が抱えるESG課題の改善や解決を促そうとするものです。そのため、エンゲージメントを「建設的な対話」というところもあります。
つまり、エンゲージメントは、企業の持続可能性や社会的責任に対して株主である運用会社が積極的に関与し、影響力を行使することを指します。株主である運用会社が企業に対してESGの重要性を指摘し、改善や透明性の促進を求めることによって、企業の持続可能な成長や長期的な価値創造を支援する役割を果たします。
運用会社と投資対象の企業は、ESG課題の解決という共通の目的の達成のために対話を行い、投資対象企業にどんな課題があるのか、どうすればその課題を解決し、目的を達成することができるのかを、この対話を通じて探っていきます。ファンドマネージャーにとっては、株主として企業の行動に影響を与えるために株主としての権利を行使する行動でもあります。そうすることで、投資先企業が株主のために長期的かつ持続可能な価値を創造するように経営されることを確実なものとすることです。エンゲージメントの成功は、企業、投資家、社会全体に利益をもたらすことができると考えられています。
UN PRI(国連責任投資)が2018年に公表したHow ESG Engagement Creates Value for Investors and Companies (どのようにESGエンゲージメントが投資家と企業に取手の価値を創造するか)で、UN PRIは環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に対する投資家エンゲージメントが、株主価値を生み出すという明確な証拠があるとのレポートを公表しています。
エンゲージメントの方法 #
エンゲージメントの方針や手法は運用会社により異なります。一般的には、投資家である運用会社が、投資先企業について各企業の年次報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書、その他一般に公開されている情報やESG調査機関などの資料を用いて事前分析を行います。
それらからESG課題や懸念事項を発見した場合には、それらを企業に指摘し、その背景にある要因等を企業から聞き取ります。
投資家は一方的に話を聞くだけでなく、投資家が考える解決策を企業側に説明し、それが企業価値の向上に繋がることなども説明し、検討することを依頼します。
このとき、企業が投資家の指摘に基づいて実際に課題を検討するか否かは、企業側の判断になります。企業側に検討する義務はありませんし、指摘を受けたからといって必ずしも企業が課題に取り組むとは限りません。対話により企業が課題を検討し、対策を実行した場合、企業側から説明を受けることもありますが、企業の発表などによりそれを知る場合もあります。
運用会社は企業が課題に取り組み始めてからは、進捗状況をフォローしてゆきます。
ESGエンゲージメントのアプローチや行動の例 #
株主のESGエンゲージメントの具体的なアプローチや行動には以下のようなものがあります:
- 株主ダイアログ(Shareholder Engagement): 株主・運用会社は企業との対話を通じて、ESGに関する懸念や要望を伝えることができます。定期的な会議や書面のやり取りを通じて、企業に影響を与える機会を追求します。
- 株主提案(Shareholder Proposals): 株主は企業の株主総会において、特定のESG問題に関する提案を行うことができます。これによって、企業に対してESG戦略の改善や報告の強化を求めることが可能です。
- 投資ポートフォリオの選定と管理: 株主は、ESGに配慮した企業やファンドへの投資を選択することで、ESGの促進に貢献することができます。ESGファクターを評価し、企業のパフォーマンスや取り組みに基づいて投資を行うことが一例です。
- 株主連携(Shareholder Collaboration): 株主は他の株主や投資家と連携し、共通のESGの関心事に関して一緒に行動することがあります。グループとして企業に対して要求を行ったり、取り組みを支援したりすることで、より大きな影響力を持つことができます。協働エンゲージメントとも呼ばれます。
株主のESGエンゲージメントは、企業に対してESG問題への取り組みを求めるだけでなく、企業のESG情報開示や報告の透明性を促進する役割も果たしています。
企業が行動を取らなかった場合
企業が運用会社からのESG課題の指摘に対して、何ら行動を取らなかった場合、運用会社によっては、株主の権利を行使し株主総会で投票項目に反対する、株主提案を行う、問題点や不満を公にすると言った行動をとる場合もあります。
例えば、フィデリティ投信は、2021年5月に「ジェンダーの多様性」への取り組みについて同社の考え方を投資先企業に改めて伝えるべく、指標を策定し、投資先企業に書簡を送ったと発表しました。同社によると、2030年をめどに取締役、管理職、全従業員それぞれに占める女性の割合を3割程度に引き上げることを指標として示し、また2022年度以降の株主総会においては女性取締役がいない投資先企業の代表取締役の選任 議案に反対票を投じることを検討する旨通知したということです。
エンゲージメント方針 #
多くの運用会社がエンゲージメントの方針をホームページで公表しています。また、具体的なエンゲージメント実績を公表している運用会社もあります。
- フィデリティ投信「エンゲージメント方針」
- 野村アセットマネジメント「エンゲージメントの基本方針」
- りそなアセットマネジメント「対話・エンゲージメン. ト方針」
- ニッセイアセットマネジメント「ESG取組方針」
- アムンディ・ジャパン「ジャパン・エンゲージメント戦略」
- 三井住友DSアセットマネジメント エンゲージメント活動実績
エンゲージメントのまとめ #
エンゲージメントとは、投資家(運用会社)が投資先企業と長期的かつ建設的な対話を行い、特にESG(環境、社会、ガバナンス)課題の改善や解決を促す活動を指します。これにより、企業の持続可能な成長や長期的な価値創造を支援します。具体的には、企業への提案や対話、株主提案、連携行動などが行われます。また、企業が改善に応じない場合には、反対票の投票や問題点の公表といった行動も含まれます。エンゲージメントは、投資家、企業、社会全体に利益をもたらす取り組みとして広がっています。