ファンダメンタル・インデックス #
ファンダメンタルインデックスとは、株式の伝統的な時価総額ベースのインデックス(指数)とは異なり、企業の財務データ(ファンダメンタルズ)を基準にして銘柄の構成比率を決定するインデックスです。ファンダメンタルインデックスは、企業の売上高、利益、キャッシュフロー、配当など、企業の経済的な実績や健全性を重視し、株価だけでなく財務状況に基づいて重み付けを行います。
ファンダメンタル・インデックスを取り巻く議論 #
ファンダメンタル・インデックスの開発会社やそれを採用する運用会社が、ファンダメンタル・インデックスの方が時価総額加重平均の指数よりも優れており、時価総額加重平均の指数を上回るパフォーマンスを達成できると主張する一方で、従来の時価総額加重平均の指数の方がコストは低く、投資家にとって適していると主張するエコノミストや運用会社もおり、投資業界では、両者についてさまざまな議論が見られています。
例えば、配当牽引型のファンダメンタル・モデルの提唱者と言われるジェレミー・シーゲル博士(ペンシルベニア大学大学院教授、元ウィズダム・ツリー・インベストメンツの上級投資戦略アドバイザー)は、ファンダメンタル加重平均ポートフォリオのメリットは、「配当や利益など企業価値を表す指標の上昇を伴わない株価の急騰、すなわちバブルを避けることにある」と言っています。また、「ファンダメンタル加重平均で指数化されたポートフォリオの開発は、時価総額加重平均指数の欠点に対する解決策を提供するかもしれない。これは、株価が効率的市場仮説よりもノイズのある市場仮説に基づいて行動する場合に、特にそうなるだろう。間違った銘柄を延々と探し求める投資家が存在するなら、実際に市場に勝つことは可能かもしれない」と、その著書「株式投資」の中で述べています。
一方で時価総額加重平均の指数の方が優れているという主張については、インデックス運用のカリスマ的存在であるジョン・ボーグルは著書「マネーと常識」の中で次のように紹介されています。
ジョン・ボーグル(バンガード・インベストメンツ創設者)のコメント
ファンダメンタル・インデックス運用は、―私がみてきたほかの新しいパラダイムとは異なり―機能するかもしれないし、機能しないかもしれない。しかし、標準的なインデックスファンドを大きく上回る冨の蓄積を約束するパラダイムの甘言に惑わされてはいけない。19世紀はじめの軍事評論家でありプロイセンの将軍であったカール・ヴァン・クラウゼヴィッツの警告「よい計画の最大の的は、完璧な計画という夢である」を忘れてはいけない。夢を退け、常識を引き寄せ、標準的なインデックスファンドが示す、よい計画を貫くべきである。
また、ノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープは次のように述べています。
時価総額ではない方法で株式市場を加重したスキームが時価総額加重インデックスを打ち負かすと考える人がいるというのは驚くべきことである・・・新しいパラダイムは現れては消える。市場が負けることに賭けること(そして大きな金額をそのために支出すること)は、きわめて重い負担となるであろう。
ファンダメンタル・インデックスの特徴 #
1. 時価総額加重指数との違い #
一般的な株式指数(例:S&P 500や東証株価指数)は、企業の時価総額(株価 × 発行済株式数)に基づいて比重を決定します。これにより、時価総額が大きい企業(つまり株価が高い企業)が指数内で大きな影響力を持ちます。
ファンダメンタル・インデックスは、株価ではなく、企業の財務指標に基づいて構成されます。主に使用される指標には、売上高、キャッシュフロー、配当、簿価(Book Value)などがあります。これにより、時価総額が大きいからといって自動的に高い比重が与えられるわけではなく、企業の「内在価値」をより反映したものになります。
2. 使用されるファンダメンタル指標 #
ファンダメンタル・インデックスの構成要素となる主な財務指標には次のものが含まれます:
- 売上高:企業の規模や業績の基本的な指標。
- キャッシュフロー:企業が実際に生み出している現金の流れを示す指標で、収益性の評価に重要。
- 配当:企業が株主に還元している利益を示す指標。
- 簿価(Book Value):企業の純資産価値を反映し、企業の健全性や資産の価値を示します。
これらの指標を総合的に利用して、各企業の指数における比重が決定されます。
3. パフォーマンスとリスク #
ファンダメンタル・インデックスは、長期的なリターンに優れているとされています。その理由は、時価総額加重型の指数では、バブル時に株価が過剰に評価された企業が指数内で大きな影響を持ち、その後の下落リスクが高まる可能性があるためです。一方、ファンダメンタルズに基づくインデックスは、企業の内在的な価値に基づいて構成されるため、市場の短期的な変動に左右されにくいとされています。
4. 有名なファンダメンタル・インデックス #
ファンダメンタル・インデックスの概念は、リサーチ・アフィリエイツ(Research Affiliates)の創設者であるロバート・アーノットによって提唱されました。代表的な例として、「RAFI(Research Affiliates Fundamental Index)」があります。これは、世界中の市場で広く利用されているファンダメンタルズ加重型インデックスです。
ファンダメンタルインデックスのメリットとデメリット #
メリット #
- 長期的なパフォーマンスの安定性:株価ではなくファンダメンタルズに基づくため、市場の一時的な過剰反応に影響されにくい。
- バリュエーションの歪みを軽減:時価総額加重型の指数では、株価が過大評価された企業が指数で大きなウェイトを占めることがあるが、ファンダメンタルズ加重ではそれが抑えられる。
デメリット #
- 短期的なパフォーマンスの変動:市場の勢いがある成長株が含まれにくい場合、時価総額加重型の指数に比べて短期的なリターンが劣ることがあります。
- 複雑な構成:ファンダメンタル・インデックスは、単純な株価加重インデックスよりも構成が複雑で、理解するのに専門的な知識が必要です。
投資信託とファンダメンタル・インデックス #
米国では、ファンダメンタル・インデックスへの連動を目指すETFが多く上場しています。日本においては、東京証券取引所に上場していた「NEXT FUNDS R/Nファンダメンタル・インデックス上場投信」(1598)は、ファンダメンタル・インデックスである「Russell/Nomura ファンダメンタル・プライム・インデックス(配当除く)」に連動することを目指すETFでしたが、2021年に上場廃止になっています。
「Russell/Nomura ファンダメンタル・プライム・インデックス(配当除く)」は、日本国内の取引所に上場している全銘柄のうち浮動株調整時価総額上位98%から構成される、Russell/Nomura Total Marketインデッ クスの構成銘柄をユニバースとし、各構成銘柄のファンダメンタル指標(調整済み売上高、調整済み営業キャッシュフロー、調整済み配当金)を用いて計算される指数ウエイトに基づいて算出される「Russell/Nomura ファンダメンタ ル・インデックス」の構成銘柄から、流動性が著しく低い銘柄や指数ウエイトが極端に低い銘柄を除外して算出されるファンダメンタル・インデックスです。
2024年10月現在運用されているファンダメンタル・インデックスを利用した投資信託の一つが、大和アセットマネジメントが運用する「ダイワ・インデックスセレクト新興国株式」です。同ファンドは、新興国の株式に投資するインデックスファンドですが、ベンチマークである「FTSE RAFIエマージングインデックス」はファンダメンタル・インデックスで、株式資本、キャッシュフロー、売上、配当といった4つのファンダメンタル指標に着目して、銘柄の選定と構成比率の決定を行なっています。
なお、FTSE RAFIエマージングインデックスをFTSE社と共同で算出・公表しているRA社(リサーチ・アフィリエイResearch Affiliates)は、ファンダメンタル指数の算出を含めたスマート・ベータ指数や戦略の開発、それらを用いた運用において世界的に有名な会社です。同社のロバート・アーノット氏とジェイソン・スー氏は、2005年にファンダメンタル指数と題する論文を発表しています。
ファンダメンタル・インデックスのまとめ #
ファンダメンタル・インデックスは、企業の時価総額ではなく、売上高や配当、キャッシュフローなどの財務指標に基づき銘柄の構成比率を決定するインデックスです。これにより、企業の経済的な実績に基づいたバランスの取れた構成となり、株価の過剰評価によるリスクを軽減しやすいとされています。スマート・ベータの一種として、長期的なリターンの安定性を重視する投資家に支持されています。