インパクト投資 #
金銭的なリターンだけでなく、特定の社会的問題あるいは環境問題を解決することを目的とした投資のことをインパクト投資と呼びます。寄付や慈善事業とは異なり、あくまでも投資であり、社会的問題の解決を図る、つまり社会的影響(インパクト)を与えると共に金銭的リターンの獲得を目指します。
インパクト投資の規模と有効性の増大を目的に2007年に米国で設立された非営利団体である「Global Impact Investing Network(GIIN)」では、インパクト投資を次のように定義しています。
Impact investments are investments made with the intention to generate positive, measurable social and/or environmental impact alongside a financial return.
日本語に訳すと、「インパクト投資とは、財務的リターンと同時に、測定可能な社会的・環境的インパクトを生み出すことを意図して行われる投資である」となります。
インパクト投資は、特定の地域の貧困の解決や特定の地域のクリーン・エネルギー活用による地域活性化、特定のコミュニティの貧困改善や教育水準の向上といった比較的小さなエリアを対象としたものから、世界銀行のグリーンボンドのように、気候変動といったグローバルな問題に取り組むプロジェクトを対象としたものまで、さまざまな規模のものがあります。インパクト投資は、持続可能な発展目標(SDGs)達成のための手段としても注目されています。
世界的取り組みフレームワーク #
先進国の取り組みとしては、2013年G8サミット議長国の英国・キャメロン首相の呼びかけのもと、インパクト投資をグローバルに推進することを目的としてG8インパクト投資タスクフォースが創設されました。その後、2015 年に(Global Steering Group for Impact Investment (GSG) と名称変更をし、2024年8月現在、世界 38か国が参画しています。日本でも、GSGインパクトジャパンが設立されています。
インパクト投資の形態 #
インパクト投資(Impact Investing)は、社会的または環境的なインパクトを追求しつつ、財務的リターンも得ることを目指す投資の形態です。主に次のような形態があります。
1. 資本投資 (Equity Investment) #
企業やプロジェクトに直接資金を提供する形で、社会的なインパクトを生み出すことを目的とした投資です。スタートアップ企業や社会的な意義を持つ中小企業に出資し、長期的な成長を支援します。たとえば、環境技術や持続可能な農業に関連する企業への出資などが典型的です。
2. 融資(Loans) #
社会的インパクトを持つプロジェクトや企業に対する融資。これには、例えば、マイクロファイナンス(小規模融資)も含まれます。
2. 債券投資 (Debt Investment) #
社会的インパクトを持つプロジェクトや企業の社債の購入を通じて行われる投資です。グリーンボンド(環境保護目的の債券)が含まれます。投資家は利子収入を得ながら、特定の社会的課題を解決するために資金を供給します。
3. ミックス・ファンド (Blended Finance) #
公的資金や民間資金を組み合わせて、社会的に重要なプロジェクトに投資する形態です。これにより、民間の投資家がリスクを抑えながらインパクト投資に参加しやすくなります。
4. ベンチャーフィランソロピー (Venture Philanthropy) #
慈善活動とベンチャー投資を組み合わせたもので、資金提供だけでなく、経営支援や技術サポートも行います。社会的なリターンが最重要視される一方で、財務的リターンが得られる場合もあります。
インパクト投資の形態はさまざまですが、共通点は「社会的価値」と「経済的リターン」の両方を追求することです。
インパクト投資と投資信託 #
投資信託にも次のようにインパクト投資を謳うファンドが2018年頃から数多く運用されています。これらを一般にインパクト投資ファンドと呼びます。
ファンド名 | 運用方針 | 運用会社 |
---|---|---|
ブラックロック・世界株式インパクト投資F(DC)《明日(あした)をつくる》 | 国際連合が定める“持続可能な開発目標(SDGs)”の達成を促進すると考えられる製品やサービスを提供する企業の株式等に投資する。 | ブラックロック・ジャパン |
グローバルインパクト投資ファンド(気候変動) | 世界における社会的課題である気候変動の緩和、気候変動の影響への適応等にヒビジネスとして取り組み、持続的に企業価値を 拡大させるとともに、社会的インパクトを創出することが期待できる銘柄を厳選して投資を行う。 | りそなアセットマネジメント |
ベイリー・ギフォードインパクト投資ファンド(ポジティブチェンジ) | 好ましい社会的インパクトをもたらす事業によって、長期の視点から成長が期待される世界各国の株式等に投資する。 | 三菱UFJアセットマネジメント |
世界インパクト投資ファン(Better World) | 世界の株式の中から社会的な課題 の解決にあたる革新的な技術やビジネスモデルを有する企業に実質的に 投資を行う。 | 三井住友DSアセットマネジメント |
日本株式インパクト投資ファンド | 日本における社会的課題の解決にヒビジネスとして取り組み、持続 的に企業価値を拡大させるとともに、社会的インパクトを創出することが期待できる銘柄を厳選して投資する。 | りそなアセットマネジメント |
野村ACI先進医療インパクト投資Aコース為替ヘッジあり資産成長型 | 世界各国の先進医療関連企業の株式を実質的な主要投資対象とし、株式への投資にあたっては、インパクト投及びESGの観点を考慮することを基本とする。 | 野村アセットマネジメント |
野村ACI先進医療インパクト投資Bコース為替ヘッジなし資産成長型 | 世界各国の先進医療関連企業の株式を実質的な主要投資対象とし、株式への投資にあたっては、インパクト投及びESGの観点を考慮することを基本とする。 | 野村アセットマネジメント |
インパクト投資ファンドを含むESG投信のグリーンウォッシング #
2015年頃から多くの「ESG投信」を謳う投資信託が売り出され、後に、運用実態が見合っていないのではないかとの懸念「グリーンウォッシング問題」が指摘されるようになりました。
そのため、金融庁は、それまで曖昧であったESG投信の定義に関して、2024年5月に「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」を改訂し、ESGを投資対象選定の主要な要素とし、かつ、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に同内容を記載しているものを「ESG投信」と定義しました。
そして、持続可能な社会の構築に向けて、環境や社会のインパクト創出を目的としているESG投信については、その目的、インパクトの内容、および目標とする指標・数値、方法論などインパクトの評価・達成方法について、開示を求めています。
また、投資家に誤解を与えることのないよう、ESG投信に該当しない公募投資信託の名称又は愛称に、ESG、SDGs(Sustainable Development Goals)、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブルなど、ESGに関連する用語が含まないよう求めています。
インパクト投資の課題 #
インパクト投資の課題としては、本当に事業からリターンが得られるようになるのか、事業を行う団体・企業がリターンを出せるか、投資家はどのような形で関与するのが最適なのか、問題解決に向けた進捗状況やゴール達成をどのように評価するのかなどがあります。
既に、次のように、世界にはインパクト投資の評価を行っている機関もありますが、今後、投資家保護を含めて、評価方法や情報公開方法などが改善することがインパクト投資の発展の鍵であると考えられています。
インパクト投資の評価機関や情報サイト
インパクト投資のまとめ #
インパクト投資は、財務的リターンと同時に社会的・環境的インパクトを創出することを目的とした投資で、SDGs達成にも貢献する新たな投資手法です。規模や形態は多様で、課題もありますが、評価の透明性や基準の明確化が今後の発展の鍵とされています。