プルーデント・マン・ルールとは? #
プルーデント・マン・ルール(prudent man rule)は、年金の運用など、他人のために資金の運用を行う受託者に課せられる義務で、受託者は、専門知識を持った思慮深い投資家であれば、当然そうするように経済状況やリスクなどさまざまな要因を考慮して、思慮深く運用を行わなければならないという義務です。
最近では、プルーデント・パーソン・ルールとも呼ばれています。Prudentは「思慮深い、分別のある、良識的な」を意味する英語です。プルーデント・マン・ルールは、日本語では「思慮深い投資家の原則」などと訳されています。
日本におけるプルーデント・マン・ルール #
日本でも、年金運用や投資信託の運用に携わる企業には、ルールの名称は異なるものの、プルーデント・マン・ルールと同様の義務が課せられています。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) #
私たちの厚生年金・国民年金の運用を行う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)には、年金積立金管理運用独立行政法人法第11条(役員等の注意義務)において、次のように、プルーデント・マン・ルールが課せられています。
○年金積立金管理運用独立行政法人法(平成十六年法律第百五号)
第十一条 (役員等の注意義務)
管理運用法人の役員及び職員は、年金積立金が厚生年金保険及び国民年金の被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、慎重かつ細心の注意を払い、全力を挙げてその職務を遂行しなければならない。
管理運用法人の役員は、管理運用業務に関する職務の執行に際しては、委任を受けて他人のために資産の管理及び運用を行う者であってその職務に関して一般に認められている専門的な知見に基づき慎重な判断を行うものが同様の状況の下で払う注意に相当する注意(慎重な専門家の注意)を払わなければならない。
投資信託の運用会社 #
投資信託の運用会社についても、金融商品取引法において、忠実義務と善管注意義務が課せられています。善管注意義務は、受託者や代理人など、特定の役割を持つ者が、その役割において「善良なる管理者としての注意義務」を果たすべき法的責任を指します。
第36条 顧客に対する誠実義務
金融商品取引業者等並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。
第43条 善管注意義務
金融商品取引業者等は、顧客に対し、善良な管理者の注意をもつて有価証券等管理業務を行わなければならない。
信託銀行 #
また、信託法においても受託者の注意義務と忠実義務は次のように定められています。
第29条 受託者の善管注意義務
受託者は、受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。
第30条 忠実義務
受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない。
米国のプルーデント・マン・ルール #
1994に、米国の統一州法委員会(Uniform Law Commission)が「Uniform Prudent Investor Act」(統一プルーデント・インベスター法)を作成し、現在では、多くの州が同法を採択しています。ただし、適用範囲などは州によりことなります。
Uniform Prudent Investor Actにおけるプルーデント・マン・ルール #
A trustee shall invest and manage trust assets as a prudent investor would, by considering the purposes, terms, distribution requirements, and other circumstances of the trust. In satisfying this standard, the trustee shall exercise reasonable care, skill, and caution.
受託者は、信託財産の目的、運用期間、分配要件、その他の状況を考慮することによって、思慮深い投資家であればそうするように信託財産の投資および運用を行なわなければならない。この基準を満たすときに、受託者は合理的配慮、技術、注意を持ってこれを実行しなければならない。(弊社訳)
ERISA法におけるプルーデント・マン・ルール #
これ以前においても、1974年に制定された米国の従業員退職所得保障法(ERISA法404a–1)の中で、年金基金の受託者責任としてプルーデント・マン・ルール(Prudent man standard of care)が次のように定められています。ERISA法は、企業年金制度や福利厚生制度の設計や運営を統一的に規定する連邦法です。
a fiduciary shall discharge that person’s duties with respect to the plan solely in the interests of the participants and beneficiaries, for the exclusive purpose of providing benefits to participants and their beneficiaries and defraying reasonable expenses of ad- ministering the plan, and with the care, skill, prudence, and diligence under the circumstances then pre- vailing that a prudent person acting in a like capacity and familiar with such matters would use in the conduct of an enterprise of a like character and with like aims.
受託者は、 参加者およびその受益者に給付を提供し、かつ、本制度の管理運営に要する合理的な費用を負担することを唯一の目的とし、かつ、同様の職務に就き、かつ、同様の事項に精通している思慮分別ある者が、同様の性質および同様の目的を持つ事業を遂行する際に用いるであろう状況下での注意、技能、慎重さ、および勤勉さをもって、その職務を遂行しなければならない。(弊社訳)
なお、米国や日本だけでなく、OECD加盟国やEUなどにおいても、同様のルールがあります。
プルーデント・マン・ルールのまとめ #
プルーデント・マン・ルールは、年金運用や投資運用を行う受託者が「思慮深い投資家」としての注意と配慮をもって資産を管理・運用する義務を示す規則です。米国や日本で法制化されており、日本では年金運用機関や投資信託の運用会社にも同様の注意義務が課されています。このルールは、受託者が顧客や受益者の利益を最優先し、慎重かつ公正な判断を行うことを求めています。