ソブリンリスク #
ソブリンリスクとは、国や政府機関が、発行した債券の元本の返済と利払いを履行できなくなるリスクのことです。つまり国の信用リスクのことです。
ソブリンは英語のsovereignのことで、国王、統治者、君主、主権者、国という意味があります。なお、国や政府機関が発行する債券のことをソブリン債(sovereign bond)やソブリン・デット(Sovereign debt)と呼ぶこともあります。
ソブリンリスクの評価 #
ソブリンリスクの大きさを分析・評価し、その結果を記号などを用いて表したものをソブリン格付といいます。ソブリン格付は、格付機関と呼ばれる専門の評価機関が評価・公表しています。代表的な格付機関には、S&P Global Ratings、格付投資情報センターなどがあります。評価手法は各社異なります。
例えば、S&P Global Ratingsでは、政治システムの評価、経済評価、対外評価、財政評価、金融評価をソブリン(国や政府機関)の信用力を決定する5つの主要分野であると捉えて分析・評価しています。
ソブリン債は、国や政府機関が発行する債券であるため、一般的には民間企業が発行する債券(社債)に比べて信用リスクが低い債券として位置付けられます。しかし、国が発行していても、新興国のソブリン債の場合は、政府や政府機関の財政状況、国の経済状況、あるいは政変などの可能性により先進国に比べて信用リスクが高い傾向にあります。
例えば、先進国の間でも、ソブリンリスクには差があります。例えば、前述のS&P Global RatingsによるG7のソブリン格付(長期、自国通貨建て)を見ると、2024年7月末現在、ドイツとカナダが最上級のAAAであるのに対して、日本はA+とドイツやカナダに比べて低くなっています。
S&P Global Ratingsのソブリン格付と各格付けの定義 #
S&P Global Ratingsはソブリン格付と各格付けを次のように定義しています。「AAA」から「BBB」までは投資適格格付とされ、投資適格格付が付与された債券は投資適格債といいます。一方、「BB」、「B」、「CCC」、「CC」に格付けされた債務者は投機的要素が大きいとみなされており、「投機的格付」と呼ばれ、これらが付与された債券は投機的格付債と呼ばれます。
<S&P Global Ratingsの長期発行体格付>
格付 | 定義 |
---|---|
AAA | 債務者がその金融債務を履行する能力は極めて高い。S&Pの最上位の発行体格付け |
AA | 債務者がその金融債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(「AAA」)との差は小さい。 |
A | 債務者がその金融債務を履行する能力は高いが、上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化の影響をやや受けやすい。 |
BBB | 債務者がその金融債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い。 |
BB | 債務者は短期的にはより低い格付けの債務者ほど脆弱ではないが、高い不確実性や、事業環境、金融情勢、または経済状況の悪化に対する脆弱性を有しており、状況によってはその金融債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。 |
B | 債務者は現時点ではその金融債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた債務者よりも脆弱である。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合には、債務を履行する能力や意思が損なわれやすい。 |
CCC | 債務者は現時点で脆弱であり、その金融債務の履行は、良好な事業環境、金融情勢、および経済状況に依存している。 |
CC | 債務者は現時点で非常に脆弱である。不履行はまだ発生していないものの、不履行となるまでの期間にかかわりなく、S&Pが不履行は事実上確実と予想する場合に「CC」の格付けが用いられる。 |
SD、D | 債務者の金融債務の少なくとも一部(長期か短期か、また格付けの有無を問わない。規制上の自己資本に分類される、あるいは契約条件に認められた形で不払いが生じているハイブリッド証券を除く)について不履行があるとS&Pが判断していることを示す。「D」は、債務者が全面的に債務不履行に陥り、すべて、または実質的にすべての債務の支払いを期日通り行わないとS&Pが判断する場合に付与される。「SD(Selective Default:選択的債務不履行)」は、債務者がある特定の債務または特定の種類の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続するとS&Pが判断する場合に付与される。債務者が経営難に伴う債務再編を実施した場合も、債務者の格付けは「D」あるいは「SD」に引き下げられる。 |
ソブリン・ボンド・ファンド #
国内外の国債や政府機関債(ソブリン債)に投資する投資信託を、ソブリン・ボンド・ファンドと呼びます。世界のソブリン債に分散投資するタイプの投資信託を一般に、グローバル・ソブリン・ファンドと呼び、新興諸国のソブリン債に分散投資するタイプの投資信託をエマージング・ソブリン・ファンドと呼びます。
購入する前には、どのような信用リスクを抱えることになるのか知るために、組み入れ国債の格付情報をチェックすることも大切です。また、投資信託では、リスク回避のために、ファンド全体の平均格付をAAなど一定の格付けまでに抑えていたり、それを公表したりしていることが多いので、平均格付を比較することで、ファンド全体としての信用リスクの大小を比較することもできます。
ソブリンリスクのまとめ #
ソブリンリスクは、国や政府機関が発行した債券の元本や利払いを履行できなくなるリスクを指します。このリスクは格付機関が評価し、ソブリン格付として示されます。先進国と新興国でリスクの差があり、新興国のソブリン債は特に信用リスクが高い傾向にあります。ソブリン債に投資するファンドには「グローバル・ソブリン・ファンド」や「エマージング・ソブリン・ファンド」があり、購入時には国債の格付やファンドの平均格付を確認することが重要です。