投資信託の運用会社のHPなどで、「日本版スチュワードシップ・コード」に賛同するという宣言を見かけます。この日本版スチュワードシップ・コードとは何でしょうか。
日本版スチュワードシップコード #
投資信託の運用会社を含め機関投資家が受託者責任を果たすための行動規範を原則としてまとめたもので、「責任ある機関投資家の諸原則<日本版スチュワードシップコード>」のことです。
スチュワードシップ(stewardship)は受託者責任と訳される英語です。また、コード(code)は行動規範のことです。つまりスチュワードシップ・コードは受託者責任を果たすための行動規範を意味します。では、なぜ、日本版かというと、英国において英国企業財務報告評議会(Financial Reporting Council)が、2012年9月に英国企業株式を保有する機関投資家向けに策定した株主行動に関するスチュワードシップ・コード(The UK Stewardship Code)を模範としているからです。
日本におけるスチュワードシップコードの歩み #
日本では、金融庁に置かれた「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が検討の末に、平成26年2月26日に「「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫」を策定・公表しました。その後いくつかの改訂が行われて今の形になっています。
多くの機関投資家がそれに賛同し、各々の行動方針をHPなどで表明しています。金融庁に置かれた検討会が策定されたとはいえ、本コードは、法令とは異なり、法的拘束力を有する規範ではありません。この検討会は、本コードの趣旨に賛同しこれを受け入れる用意がある機関投資家に対して、その旨を表明(公表)することを期待する、としていましたが、金融庁に置かれた検討会ですから、ほとんどの機関投資家が賛同を表明しています。
「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ について #
スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会は、2020年3月の「責任ある機関投資家の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」の中で、「責任ある機関投資家の諸原則について次のように記しています。
本コードにおいて、「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業や その事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG 要素 を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。以下同じ。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味する。
本コードは、機関投資家が、顧客・受益者と投資先企業の双方を視野に入れ、「責任ある機関投資家」として当該スチュワードシップ責任を果たすに当たり有用と考えられる諸原則を定めるものである。本コードに沿って、機関投資家が適切にスチュワードシップ責任を果たすことは、経済全体の成長にもつながるものである。
「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫(2020年3月改訂版) #
責任ある期間投資家の諸原則は次の8原則と指針で構成されています。
原則1 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 #
指針
1-1. 機関投資家は、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG 要素5を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきである。
1-2. 機関投資家は、こうした認識の下、スチュワードシップ責任を果たすための 方針、すなわち、スチュワードシップ責任をどのように考え、その考えに則って当該責任をどのように果たしていくのか、また、顧客・受益者から投資先企 業へと向かう投資資金の流れ(インベストメント・チェーン)の中での自らの 置かれた位置を踏まえ、どのような役割を果たすのかについての明確な方針を 策定し、これを公表すべきである。
その際、運用戦略に応じて、サステナビリティに関する課題をどのように考慮するかについて、検討を行った上で当該方針において明確に示すべきである。
1-3. アセットオーナーは、最終受益者の視点を意識しつつ、その利益の確保の ため、自らの規模や能力等に応じ、運用機関による実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関に促すべきである11。アセットオーナーが直 接、議決権行使を伴う資金の運用を行う場合には、自らの規模や能力等に応じ、自ら投資先企業との対話等のスチュワードシップ活動に取り組むべきである。
1-4. アセットオーナーは、自らの規模や能力等に応じ、運用機関による実効的な スチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定や運用委託契約の締 結に際して、議決権行使を含め、スチュワードシップ活動に関して求める事項 や原則を運用機関に対して明確に示すべきである。特に大規模なアセットオー ナーにおいては、インベストメント・チェーンの中での自らの置かれている位 置・役割を踏まえ、運用機関の方針を検証なく単に採択するのではなく、スチュワードシップ責任を果たす観点から、自ら主体的に検討を行った上で、運用 機関に対して議決権行使を含むスチュワードシップ活動に関して求める事項 や原則を明確に示すべきである。
1-5. アセットオーナーは、自らの規模や能力等に応じ、運用機関のスチュワードシップ活動が自らの方針と整合的なものとなっているかについて、運用機関の自己評価なども活用しながら、実効的に運用機関に対するモニタリングを行うべきである。このモニタリングに際しては、運用機関と投資先企業との間の 対話等のスチュワードシップ活動の「質」に重点を置くべきであり、運用機関 と投資先企業との面談回数・面談時間や議決権行使の賛否の比率等の形式的な 確認に終始すべきではない。
原則2 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 #
指針
2-1. 機関投資家は顧客・受益者の利益を第一として行動すべきである。一方で、 スチュワードシップ活動を行うに当たっては、自らが所属する企業グループと 顧客・受益者の双方に影響を及ぼす事項について議決権を行使する場合など、 利益相反の発生が避けられない場合がある。機関投資家は、こうした利益相反 を適切に管理することが重要である。
2-2. 機関投資家は、こうした認識の下、あらかじめ想定し得る利益相反の主な類 型について、これをどのように実効的に管理するのかについての明確な方針を 策定し、これを公表すべきである。
特に、運用機関は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避し、その影響を実効的 に排除するなど、顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な 方針を策定し、これを公表すべきである。
2-3. 運用機関は、顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備し、これを公表すべきである。
2-4. 運用機関の経営陣は、自らが運用機関のがばナンス強化・利益相反管理に関 して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきである。
原則3 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。 #
指針
3-1. 機関投資家は、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、 その持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企 業の状況を的確に把握することが重要である。
3-2. 機関投資家は、こうした投資先企業の状況の把握を継続的に行うべきであり、 また、実効的な把握ができているかについて適切に確認すべきである。
3-3. 把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、 資本構造、事業におけるリスク・収益機会(社会・環境問題に関連するものを 含む)及びそうしたリスク・収益機会への対応など、非財務面の事項を含む様々な事項が想定されるが、特にどのような事項に着目するかについては、機関投資家ごとに運用戦略には違いがあり、また、投資先企業ごとに把握すべき事項 の重要性も異なることから、機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に 照らし、自ら判断を行うべきである。その際、投資先企業の企業価値を毀損するおそれのある事項については、これを早期に把握することができるよう努めるべきである。
原則4 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。 #
指針
4-1. 機関投資家は、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、 その持続的成長を促すことを目的とした対話13を、投資先企業との間で建設的 に行うことを通じて、当該企業と認識の共有16,17を図るよう努めるべきである。なお、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、当該企業 の企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明 を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に 努めるべきである。
4-2. 機関投資家は、サステナビリティを巡る課題に関する対話に当たっては、運 用戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に結び付くものとなるよう意識すべきである。
4-3. パッシブ運用は、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な 企業価値の向上を促す必要性が高いことから、機関投資家は、パッシブ用を行うに当たって、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り 組むべきである。
4-4. 以上を踏まえ、機関投資家は、実際に起こり得る様々な局面に応じ、投資先 企業との間でどのように対話を行うのかなどについて、あらかじめ明確な方針を持つべきである。
4-5. 機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、単独でこうした 対話を行うほか、必要に応じ、他の機関投資家と協働して対話を行うこと(協働エンゲージメント)が有益な場合もあり得る。
4-6. 一般に、機関投資家は、未公表の重要事実を受領することなく、公表された 情報をもとに、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を行うことが可 能である。また、「G20/OECD コーポレート・ガバナンス原則」や、これを踏まえて策定された東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」は、企 業の未公表の重要事実の取扱いについて、株主間の平等を図ることを基本とし ている。投資先企業と対話を行う機関投資家は、企業がこうした基本原則の下に置かれていることを踏まえ、当該対話において未公表の重要事実を受領する ことについては、基本的には慎重に考えるべきである。
原則5 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。 #
指針
5-1. 機関投資家は、すべての保有株式について議決権を行使するよう努めるべき であり、議決権の行使に当たっては、投資先企業の状況や当該企業との対話の 内容等を踏まえた上で、議案に対する賛否を判断すべきである。
5-2. 機関投資家は、議決権の行使についての明確な方針を策定し、これを公表すべきである。当該方針は、できる限り明確なものとすべきであるが、単に形 式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するもの となるよう工夫すべきである。
5-3. 機関投資家は、議決権の行使結果を、少なくとも議案の主な種類ごとに整理・ 集計して公表すべきである。
また、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすための方針に沿って適 切に議決権を行使しているか否かについての可視性をさらに高める観点から、機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきである。それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別の投資先企 業及び議案ごとに議決権の行使結果を公表することが必ずしも適切でないと 考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきである。
議決権の行使結果を公表する際、機関投資家が議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資すると考えられ る。特に、外観的に利益相反が疑われる議案や議決権行使の方針に照らして説 明を要する判断を行った議案等、投資先企業との建設的な対話に資する観点か ら重要と判断される議案については、賛否を問わず、その理由を公表すべきで ある。
5-4. 機関投資家は、議決権行使助言会社のサービスを利用する場合であっても、 議決権行使助言会社の人的・組織的体制の整備を含む助言策定プロセスを踏まえて利用することが重要であり、議決権行使助言会社の助言に機械的に依拠するのではなく、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、自ら の責任と判断の下で議決権を行使すべきである。仮に、議決権行使助言会社の サービスを利用している場合には、議決権行使結果の公表に合わせ、当該議決 権行使助言会社の名称及び当該サービスの具体的な活用方法についても公表 すべきである。
原則6 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。 #
指針
6-1. 運用機関は、直接の顧客に対して、スチュワードシップ活動を通じてスチュワードシップ責任をどのように果たしているかについて、原則として、定期的 に報告を行うべきである。
6-2. アセットオーナーは、受益者に対して、スチュワードシップ責任を果たすための方針と、当該方針の実施状況について、原則として、少なくとも年に1度、報告を行うべきである 。
6-3. 機関投資家は、顧客・受益者への報告の具体的な様式や内容については、顧 客・受益者との合意や、顧客・受益者の利便性・コストなども考慮して決めるべきであり、効果的かつ効率的な報告を行うよう工夫すべきである。
6-4. なお、機関投資家は、議決権の行使活動を含むスチュワードシップ活動について、スチュワードシップ責任を果たすために必要な範囲において記録に残すべきである。
原則7 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその 事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの 考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適 切に行うための実力を備えるべきである。 #
指針
7-1. 機関投資家は、投資先企業との対話を建設的なものとし、かつ、当該企業の 持続的成長に資する有益なものとしていく観点から、投資先企業やその事業環 境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えていることが重要である。
このため、機関投資家は、こうした対話や判断を適切に行うために必要な体 制の整備を行うべきである。
7-2. 特に、機関投資家の経営陣はスチュワードシップ責任を実効的に果たすため の適切な能力・経験を備えているべきであり、系列の金融グループ内部の論理などに基づいて構成されるべきではない。
また、機関投資家の経営陣は、自らが対話の充実等のスチュワードシップ活 動の実行とそのための組織構築・人材育成に関して重要な役割・責務を担って いることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきである。
7-3. 対話や判断を適切に行うための一助として、必要に応じ、機関投資家が、他 の投資家との意見交換を行うことやそのための場を設けることも有益であると考えられる。
7-4. 機関投資家は、本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を適宜の時期に省みることにより、本コードが策定を求めている各方針の改善につなげるなど、将来のスチュワードシップ活動がより適切なものとなるよう努めるべきである。
特に、運用機関は、持続的な自らのガバナンス体制・利益相反管理や、自ら のスチュワードシップ活動等の改善に向けて、本コードの各原則(指針を含む) の実施状況を定期的に自己評価し、自己評価の結果を投資先企業との対話を含むスチュワードシップ活動の結果と合わせて公表すべきである。その際、これらは自らの運用戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的 成長に結び付くものとなるよう意識すべきである。
原則8 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。 #
指針
8-1. 議決権行使助言会社・年金運用コンサルタントを含む機関投資家向けサービス提供者は、利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、これをどのように実効的に管理するのかについての明確な方針を策定して、利益相反管理体制を整備するとともに、これらの取組みを公表すべきである。
8-2. 議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人 的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである。
8-3. 議決権行使助言会社は、企業の開示情報に基づくほか、必要に応じ、自ら企 業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。
助言の対象となる企業から求められた場合に、当該企業に対して、前提となる情報に齟齬がないか等を確認する機会を与え、当該企業から出された意見も 合わせて顧客に提供することも、助言の前提となる情報の正確性や透明性の確保に資すると考えられる。
日本版スチュワードシップ・コードのまとめ
日本版スチュワードシップ・コードは、機関投資家が受託者責任(スチュワードシップ責任)を果たすための行動規範で、企業価値の向上や持続的成長を促すことを目的としています。投資先企業との対話や議決権行使などを通じ、顧客や受益者の長期的なリターンを向上させることを求め、原則7つに基づいて策定されています。このコードは法的拘束力はないものの、多くの機関投資家が賛同し、方針を公表しています。