サステナビリティボンド(Sustainability Bond)とは、環境的課題と社会的課題の双方に取り組む事業のための資金を調達するために発行される債券のことです。したがって、サステナビリティボンドの発行により調達された資金全てはグリーンボンドプロジェクト及びソーシャルプロジェクトへの投資や融資に充てられます。
サステナビリティボンドは、国際キャピタルマーケット協会(ICMA)の定めたグリーンボンド原則(GBP)とソーシャルボンド原則(SBP)の両方に共通する4つの核となる要素に適合した債券です。
4つの核となる要素 #
4つの核となる要素とは、1.調達資金の使途、2.プロジェクトの評価と選定のプロセス、3.調達資金の管理、レポーティングの透明性に関するものです。
① 調達資金の使途 #
サステナビリティ・ボンドで調達した資金は、環境的・社会的便益が明確なプロジェクトの資金調達や借り換えに限定して使用しなければなりません。例えば、再生可能エネルギー事業、クリーンな輸送、持続可能な水管理、手頃な価格の住宅、利用しやすい医療などが含まれます。
② プロジェクトの評価と選定のプロセス #
サステナビリティ・ボンドの発行体は、プロジェクトが環境的・社会的便益の適格カテゴリーにどのように適合するかを決定するための明確なプロセスを持っていなければなりません。このプロセスは透明性が高く、文書化される必要があります。
③ 調達資金の管理 #
債券発行による収入は、適格なプロジェクトのみに配分されるよう、個別に追跡・管理されなければなりません。多くの場合、発行体はこれらの資金を追跡するためのサブ口座やポートフォリオを設定します。
④ レポーティングの透明性 #
資金使途に関する定期的な報告は極めて重要であり、発行体は、資金がどのように使われたか、どのようなプロジェクトに資金が提供されたか、そして可能であれば、これらのプロジェクトが環境や社会に与える影響について、詳細な情報を提供する必要があります。この報告は、資金が全額配分されるまでは毎年行い、その後も重要な進展があった場合には必要に応じて行なわれます。
サステナビリティボンドの特徴 #
サステナビリティボンドの特徴は次のとおりです。
1. 明確な目的: サステナビリティボンドは、特定の目的を持つプロジェクトや取り組みに資金を提供するために発行されます。これには、再生可能エネルギーの開発、エネルギー効率の向上、廃棄物管理、社会的インフラの整備などが含まれます。発行者は、資金の使途を明確に定義し、投資家に対して報告する責任があります。
2. サステナビリティフレームワークへの適合: サステナビリティボンドの発行には、国際キャピタルマーケット協会(ICMA)のサステナビリティ・ボンド・ガイドラインに適合していることが求められます。サステナビリティ・ボンド・ガイドラインはサステナビリティボンドの設計や目的の達成度や効果を評価するための基準です。
3. インパクトの評価: サステナビリティボンドは、投資の社会的・環境的なインパクトを評価することも重要とされています。発行者は、プロジェクトの予測される効果や成果をモニタリングおよび報告し、投資家に対して透明性を提供する必要があります。
4. 投資家の関心の高まり: サステナビリティに対する投資家の関心の高まりにより、サステナビリティボンド市場は成長しています。財務の側面だけでなく、環境や社会への影響を評価し、持続可能性に貢献する投資を追求する投資家が増えています。
サステナビリティボンドの具体的な使途 #
サステナビリティボンドの具体的な使途は、以下のようなものがあります。
1. 再生可能エネルギー: サステナビリティボンドは、風力発電、太陽光発電、水力発電などの再生可能エネルギープロジェクトへの資金提供に使用されます。これにより、化石燃料に依存せずにクリーンなエネルギーの普及が促進されます。
2. エネルギー効率改善: サステナビリティボンドは、建築物やインフラのエネルギー効率を向上させるためのプロジェクトにも資金を提供します。例えば、省エネ設備の導入やエネルギー管理システムの改善などが含まれます。
3. 環境保護: サステナビリティボンドは、自然保護、生態系保全、水資源管理などの環境保護プロジェクトへの資金提供にも使用されます。これにより、生態系の保全や水資源の持続可能な利用が支援されます。
4. 社会的インフラ: サステナビリティボンドは、社会的インフラの整備や社会的課題の解決にも資金を提供します。例えば、教育施設の改善、医療施設の拡充、社会的包摂プログラムの支援などが挙げられます。
5. サプライチェーンの改善: サステナビリティボンドは、企業のサプライチェーンにおける社会的・環境的な問題の解決にも役立ちます。例えば、労働条件の改善や持続可能な調達の促進などがあります。
これらは一般的なサステナビリティボンドの使途の一部であり、発行者の具体的な目的によって使途は異なります。重要な点は、サステナビリティボンドの使途が社会的・環境的な持続可能性の向上に貢献するということです。
サステナビリティボンドは、投資家と発行者の双方にとって利益をもたらすことが期待されています。投資家は、社会的・環境的な効果を追求しながら、財務的なリターンを得ることができます。発行者は、サステナビリティプロジェクトへの資金調達を容易にし、企業のイメージやブランド価値の向上を図ることができます。
日本国内で発行されたさステナビリティボンドの例 #
- JR東日本: 東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、2020年よりサステナビリティボンドを発行しています。電車のエネルギー効率向上や環境に配慮した駅の開発、車両のバリアフリー化など、持続可能な交通インフラに関連するプロジェクト資金として利用されています。
- 清水建設: 東京都江東区豊洲エリアにおいて国土交通省スマートシティモデル事業の先行モデルプロジェクトである「ミチノテラス豊洲」の開業を前に、2021年にこのプロジェクトの建設資金等に活用する目的でサステナビリティボンドを発行しました。
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ: 感染症拡大(COVID19等)による経済的被害・影響からの回復に寄与する、中小企業および個人事業主を対象とした融資等に充当する目的で2020年に発行しました。
- 日本政策投資銀行:2015年以降毎年サステナブルボンドを発行しています。資金は、グリーンビルディング、再生可能エネルギー、クリーンな輸送プロジェクトなどへの投融資に利用されています。
- 岩谷産業:2024年1月にサステナブルボンドを発行。資金は、CO2フリー水素サプライチェー ンの構築やLPガスの安定供給体制の構築に加え、低環境負荷の原料開発といった循環型社会の推進に資する投資等に活用。
- 京阪ホールディングス:同社初のサステナビリティボンドを2021年に発行。2024年1月に2回目となるサステナビリティボンドを発行。資金は枚方市駅周辺地区第一種市街地再開発事業、環境負荷軽減素材を使用した製品の調達、「GOOD NATURE STATION」における実質再生可能エネルギー由来の電力調達などに活用。
サステナビリティボンド市場の規模 #
経済産業省が公表した「トランジション・ファイナンス2022年市場概要」によると、世界の2022年のサステナブルボンドの市場規模は1,537億ドルでした。
サステナビリティボンドのまとめ #
サステナビリティボンドは、環境問題と社会問題の両方に取り組むプロジェクト資金を調達するための債券で、ICMAのガイドラインに準拠しています。資金は、再生可能エネルギー、エネルギー効率改善、社会的インフラなど、持続可能性を高めるプロジェクトに使われます。透明性を重視し、資金の使途や効果を定期的に報告する必要があります。日本でもJR東日本や清水建設などが発行しており、市場規模は世界的に拡大しています(2022年には1,537億ドル)。