2014年9月26日に、運用業界を揺さぶる衝撃的なニュースが発表されました。それは、世界的な運用会社PIMCO社の創業者の一人であり、債券運用のカリスマのビル・グロス最高投資責任者氏が、40年以上勤めた同社を退職し、今後は同業のジャナス・キャピタル・グループJanus Capital Groupに移籍するというものでした。
PIMCOといえばビル・グロス氏、ビル・グロス氏といえば債券運用と言われるほど、ビル・グロス氏は世界最高の債券のファンドマネージャーとしての地位を確立しています。伝説的ファンドマネージャー、債券運用の神様、債券王(Bond King)とも呼ばれているほどです。モーニングスター社をはじめ世界中の多くの評価機関やマスコミから最優秀ファンドマネージャー賞等を受賞しています。また、1996年には米国の債券アナリスト協会(Fixed Income Analysts Society, Inc : FIASI)の名誉の殿堂入りを果たしています。名誉の殿堂入りの授賞式での同協会の協会長のスピーチを読むと、ビル・グロス氏の功績についてトータル・リターン戦略を確立したこと、運用するファンドが過去20年において年平均で市場を1.25%アウトパフォームし続けていることなどが挙げられています。
PIMCOは、1971年にビル・グロス氏、ビル・ボトリック氏、ジムー・マジー氏の3名によって創業された米国を本拠地とする運用会社です。PIMCOの旗艦ファンドであり、ビル・グロスが自ら提唱してきたトータル・リターン戦略によって運用してきた投資信託の「PIMCO Total Return Fund」は、1987年に設定され、設定来平均で毎年7.65%のリターンをあげてきました。純資産総額は2014年8月末現在で約2210億ドル(約24兆円)で、米国第2位の規模を誇り、(一時は全米最大のファンドでしたが、現在、第1位はバンガード・トータル・マーケット・インデックス・ファンド)、債券ファンドとしては世界最大のファンドです。PIMCO社のホームページによると、設定時に10000ドルを投資していれば、2014年8月末には約74000ドルになっていたことになるということです。ビル・グロス氏が設立したPIMCO社は、2014年6月末現在、運用資産総額約1.97兆ドル(約200兆円)と世界最大規模の運用会社になっています。ちなみに、日本の投資信託市場全体の規模(公募投資信託と私募投資信託の合計)は約135兆円(2014年8月末現在)ですから、PIMCO社がいかに巨大な運用会社かがわかります。
トータル・リターン戦略とは?
ジム・グロス氏の提唱する債券のトータル・リターン戦略とは、どのような戦略なのでしょうか。債券ファンドの利益の源泉は「利子収入(インカムゲイン)」と「値上がり益(キャピタルゲイン」がありますが、一般には、利子収入の獲得が最も重視される傾向にあります。しかし、トータル・リターン戦略は、ボラティリティ(価格の変動幅)をインデックス並みにコントロールしながら、キャピタルゲインとインカムゲインで構成されるトータル・リターンの最大化を目指すという戦略です。PIMCO社のHPに詳細な説明が掲載されています。
ビル・グロス氏の移籍の発表を受け、金融業界ではこの数日にさまざまな影響が見られます。ニュースのヘッドラインを拾ってみましょう。
- 米国債反落、グロース氏のピムコ退社で売り(ウォールストリートジャーナル)
- ピムコから巨額の資金流出(ウォールストリートジャーナル)
- 米ピムコ、債券王グロース氏退任も「直ちに売る理由なし」(モーニングスター)
- PIMCO、グロス氏退職で数千億ドル流出も(モーニングスター)
- PIMCO、顧客の解約に身構え(ブルンバーグ)
- PIMCO債券ファンド「金」から「銅」に格下げ(モーニングスター)
- Pimco will lose billions from Gross’ departure(USA Today)
- Billions of Dollars Could Follow Bill Gross From PIMCO to Janus(Forbes)
- Overthrowing the Bond King(The Economist)
- Pimco Bond King resigns: addication or coup? (Financial Times)
ビル・グロス氏が移籍したJanus Capital Groupは、1969年に設立された米国の独立系運用会社で、ニューヨーク証券取引所に上場しています。また、日本にも拠点を持っています。今後、これまでビル・グロス氏が運用してきたPIMCO Total Return Fundがどのようなパフォーマンスを見せるのか、また、ビル・グロス氏がジャナスでどんなファンドを運用し、どのような運用成績を達成するのか、注目していきたいと思います。