2023年3月に償還した投資信託―33本中14本が運用期間途中での繰上償還


3月は33本の追加型株式投資信託が償還、このうち14本が繰上償還

投資信託協会によると、2023年3月に33本の追加型の株式投資信託が償還を迎えました。償還とは投資信託が運用を終了することをいいます。

この33本のうち満期償還(定時償還)は18本だけで、残りの14本は、ファンドが設定された時点で定められていた信託期間(運用期間)を満了せずに、運用の途中で信託期間を繰り上げて償還されたもの、1本は基準価額が12,000を超えたら償還するという条件のファンドで、その条件を満たしたことで償還されました。

投資信託の償還の状況

繰上償還の理由

2023年3月に繰上償還されたファンド14本の繰上償還の理由を見てみましょう。

6本については、純資産総額が減少し、信託約款の繰上償還条項に定める金額を下回り、効率的な運用を行うことが困難な状況が続いていることが理由でした。依然として、残高の減少が繰上償還の理由として最も多い状況です。

アセットマネジメントOneファンドラップ用ファンド4本については、いずれも、受益者より解約の意向を受けた結果、残存受益権口数がゼロになったための繰上償還でした。

UBSアセット・マネジメントの「UBS環境ロング・ショート・ファンド(為替ヘッジあり)」「UBS環境ロング・ショート・ファンド(為替ヘッジなし)」の2本は、主要投資対象である外国投資信託が償還することになったための償還でした。

なお、この主要投資対象の外国投資信託については、償還の理由を次のように記載しています。

当ファンドの主要投資対象である外国投資信託「Environmental Long Short Japan Master Limited (Class A-JPY Hedged Shares)/(Class A-JPY Shares)」の投資運用会社である UBS O’Connor LLC は、2023 年 1 月下旬に当該運用について中長期的な有効性を精査した際、当該外国投資信託の運用戦略が、いかなる市場環境においてもリターンの獲得を目指すという投資目的を中長期で達成することが困難であるとの結論に達し、当該外国投資信託取締役会において、当該外国投 資信託を3月21日付で償還することを決議しました。

この2本のファンドは2021年に設定されたばかりのファンドです。設定からわずか2年で「当該運用について中長期的な有効性を精査した際、当該外国投資信託の運用戦略が、いかなる市場環境においてもリターンの獲得を目指すという投資目的を中長期で達成することが困難」だと結論付けたというのでは、設定前にその有効性を精査していなかったのか、あるいは2年の間の市場変化により運用戦略の有効性に特別な問題が判明したのか、運用会社にはもう少し詳細な説明が求められるところです。

SOMPOアセットマネジメントの「SOMPOエイゴン・グローバル・サステナブル株式ファンド」についても、受益権口数の全部につき解約の請求があったことにより償還となりました。

最後に、アセットマネジメントOneの「ハイブリッド証券ファンドロシアルーブルコース」については、ロシアのウクライナ侵攻後の市場の混乱等により、ロシアルーブルの流動性が依然として低水準にあり、今後も回復の見通しが立たない状態が続いていることが償還の理由でした。

 

繰上償還の影響

投資家にとって投資信託の繰上償還は投資リスクの一つです。

保有している投資信託が繰上償還になった場合、その時点で評価損失があれば、償還時点で投資家の損失は確定されることになります。基準価額が回復することを期待して保有していた投資家も損失を確定し、現金化せざるをえません。一方、償還時に利益が出ていた場合は、利益を確定して通常は税金を支払うことになります。

これにより、投資家は運用計画を見直さざるをえなくなります。時間をかけて選んだ投資信託が、想定していた運用期間途中で運用終了されてしまうため、老後や子供の教育資金を目的とした資金計画をやり直す必要が生じてしまうわけです。

多くのファンドが繰上償還される現状を鑑みると、ファンドの選択には十分な注意が必要です。

この繰上償還リスクを回避するためには、投資信託を購入する前に、次の点を確認することがとても大切です。

  • 運用残高(純資産総額)が十分大きいこと
  • 運用残高が減少傾向にないこと

なお、投資信託協会のデータによると、ETFを除いた追加型株式投資信託の1本当たりの平均残高は約150億円です(2022年12月末現在)。一方で、純資産総額(残高)が500億円を超える投資信託は343本(2022年12月末現在)運用されています。少なくとも残高が平均以上あり、その残高が増加傾向にある投資信託を選択した方がよいでしょう。

 

1口当たり償還額

2023年3月に償還した投資信託の1口当り償還額(A)を見ると、上場投資信託である「NEXT FUNDS ラッセル野村小型コア・インデックス連動型上場投信」を除く32本中15本は設定時の基準価額である10,000円を下回る金額で償還しました。

1口当り償還額が最も低かったのは、SBIアセットマネジメント株式会社の「SBI 日本株3.8ベア」で1口当り償還額は366.83円でした。同ファンドは株価指数先物取引を積極的に活用し、日々の基準価額の値動きがわが国の株式市場全体の値動きの概ね3.8倍程度逆となる投資成果を目指して運用を行うベア型ファンドでした。

一方で、1口当り償還額が最も高かったのは、野村アセットマネジメント株式会社の「野村ブル・ベア セレクト8(米国株スーパーブル8)」で、1口当り償還額は21,630.35円でした。

 

1口当たり償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額

1口当り償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額(トータル・リターン)で見ると、この合計額(A+B)が10,000円を下回ったファンドが10本ありました。

1口当り償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額が最も低かったのは、SBIアセットマネジメント株式会社の「SBI 日本株3.8ベア」で、合計額は366.83円(1口当り償還額366.83円+分配金0円)でした。

一方、この合計額が最も高かったのは、「野村ブル・ベア セレクト8(米国株スーパーブル8)」で、合計額は21,630.35円(1口当り償還額21,630.35円+分配金0円)でした。

 

2023年3月に償還した追加型株式投資信託の一覧

運用会社 ファンド名 設定日 償還時純資産
総額
(百万円)
1口当り
償還額
(A)
(円)
期中
分配金
(B)
(円)
合計
(A) + (B)
(円)
満期/繰上
野村 NEXT FUNDS ラッセル野村小型コア・インデックス連動型上場投信 2007.10.22 1,090 216,742.26 37,509.00 254,251.26 繰上
野村 野村ブル・ベア セレクト8(米国株スーパーブル8) 2020.3.25 451 21,630.35 0.00 21,630.35 満期
野村 野村ブル・ベア セレクト8(米国株スーパーベア8) 2020.3.25 350 2,721.38 0.00 2,721.38 満期
野村 野村ブル・ベア セレクト8(米国国債4倍ブル8) 2020.3.25 195 4,141.13 0.00 4,141.13 満期
野村 野村ブル・ベア セレクト8(米国国債4倍ベア8) 2020.3.25 461 18,639.30 0.00 18,639.30 満期
野村 野村ブル・ベア セレクト8(円安ドル高トレンド8) 2020.3.25 151 15,740.94 0.00 15,740.94 満期
野村 野村ブル・ベア セレクト8(円高ドル安トレンド8) 2020.3.25 227 5,416.96 0.00 5,416.96 満期
野村 野村ブル・ベア セレクト8(マネー ポートフォリオ8) 2020.3.25 244 9,981.35 0.00 9,981.35 満期
日興 グローバルCoCo債ファンド 先進国高金利通貨コース 2014.10.1 181 6,759.49 5,545.00 12,304.49 繰上
日興 グローバルCoCo債ファンド 新興国高金利通貨コース 2014.10.1 248 4,706.79 8,555.00 13,261.79 繰上
大和 ダイワ/フィデリティ北米株式ファンド -パラダイムシフト- 2013.3.19 2,496 15,232.63 5,150.00 20,382.63 満期
明治安田 明治安田クオリティ日本株ファンド(限定追加型・繰上償還条項付) 2018.6.26 3,002 12,086.05 0.00 12,086.05 条件
ニッセイ ピムコ世界債券戦略ファンド(毎月決算型) Aコース(為替ヘッジあり) 2013.3.22 368 6,155.65 3,510.00 9,665.65 満期
ニッセイ ピムコ世界債券戦略ファンド(毎月決算型) Bコース(為替ヘッジなし) 2013.3.22 1,069 7,423.14 4,930.00 12,353.14 満期
ニッセイ ピムコ世界債券戦略ファンド(年1回決算型) Cコース(為替ヘッジあり) 2013.7.1 1,172 9,499.56 0.00 9,499.56 満期
ニッセイ ピムコ世界債券戦略ファンド(年1回決算型) Dコース(為替ヘッジなし) 2013.7.1 648 12,424.02 0.00 12,424.02 満期
ゴールドマン GSエマージング通貨債券ファンド 年2回決算コース 2018.3.29 331 9,903.87 0.00 9,903.87 繰上
SOMPO 日本株・市場リスクコントロールファンド 2013.5.31 276 9,857.05 1,550.00 11,407.05 満期
SOMPO SOMPOエイゴン・グローバル・サステナブル株式ファンド 2022.3.28 8 8,355.57 0.00 8,355.57 繰上
One ハイブリッド証券ファンドロシアルーブルコース 2009.11.16 145 3,379.11 9,035.00 12,414.11 繰上
One MHAM新興国株式ファンド(ファンドラップ) 2008.6.3 547 13,633.31 0.00 13,633.31 繰上
One MHAM世界リートファンド(ファンドラップ) 2008.6.3 744 20,969.71 0.00 20,969.71 繰上
One MHAM日本株式 2000.3.10 1,243 10,386.64 1,100.00 11,486.64 満期
One 日本経済『大転換』ファンド 2013.7.1 599 10,791.37 9,000.00 19,791.37 満期
One 新光シラー・グローバルREITファンド(ファンドラップ) 2015.11.16 54 12,223.96 0.00 12,223.96 繰上
One 日本株リーダーズファンド 2008.3.17 1,836 19,483.37 1,190.00 20,673.37 満期
One MHAM新興国現地通貨建債券ファンド(ファンドラップ) 2008.6.3 590 13,370.53 0.00 13,370.53 繰上
UBS UBS環境ロング・ショート・ファンド(為替ヘッジあり) 2021.9.29 31 8,740.70 0.00 8,740.70 繰上
UBS UBS環境ロング・ショート・ファンド(為替ヘッジなし) 2021.9.29 587 10,648.30 0.00 10,648.30 繰上
三井住友DS会社 日興・新経済成長国エクイティ・ファンド 2013.3.26 5,125 11,258.00 0.00 11,258.00 満期
SBIアセット SBI 日本株3.8ベア 2020.3.17 4,176 366.83 0.00 366.83 満期
キャピタル アセット ICJ GOLD 2022.3.15 10 10,140.10 0.00 10,140.10 繰上
キャピタル アセット ESG GOLD 2022.5.20 11 10,692.83 0.00 10,692.83 繰上

(データ等出所:投資信託協会、EDINET、各ファンドの有価証券届出書・臨時報告書)