9月は32本の追加型株式投資信託が償還、このうち12本が繰上償還
投資信託協会によると、2022年9月に32本の追加型の株式投資信託が償還を迎えました。償還とは投資信託が運用を終了することをいいます。
この32本のうち満期償還(定時償還)は19本だけで、12本は、ファンドが設定された時点で定められていた信託期間(運用期間)を満了せずに、運用の途中で信託期間を繰り上げて償還されました。また、1本は、ファンドの基準価額が最高値から一定の割合下落した場合に償還するという約款で定められた条件を満たしての償還でした。
繰上償還の理由
2022年9月に繰上償還されたファンド12本の繰上償還の理由を見てみましょう。
4本については、運用残高が小さくなり、運用方針に沿った運用の継続が困難になったことが理由でした。投資信託は運用残高(純資産総額)が少なくなると、効率的に分散投資を行うことが困難になるため、各ファンドが約款で繰上償還の条件としている一定の残高(ファンドにより異なる)を下回った状態が継続すると繰上償還される傾向にあります。
アムンディ・ジャパンの「アムンディ・次世代イノベーティブ世界株式ファンド」は、受益者より全受益権口数の解約請求を受けたため繰上償還に至りました。
また、大和アセットマネジメントの「US債券NB戦略ファンド(為替ヘッジあり/年1回決算型)」「同(為替ヘッジなし/年1回決算型)」と「ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 為替ヘッジあり(年1回決算型)」「同・為替ヘッジなし(年1回決算型)」の4本については、これらのファンドが投資しているファンドに投資する他の複数の投資信託が2022年9月27日に満期償還することを予定しており、残高が10分の1以下に急減することが予想され、この残高では、効率的な運用を継続することが困難という理由で繰上償還されました。
また、ロシアのウクライナ侵攻の影響があったファンドもありました。ドイチェ・アセット・マネジメントが運用する「ドイチェ・グローバルREIT投信(ロシアルーブルコース)(毎月分配型)」「ドイチェ・グローバルREIT投信(ロシアルーブルコース)(年2回決算型)」については、ウクライナ侵攻によりロシアへの制裁が強化されたこと等を受け、ロシアルーブルの流動性が著しく低下し、為替取引において通常の取引や決済を行うことが困難な状態となったことから、運用の基本方針に則った運用を継続することが困難であり、信託約款に規定する「やむを得ない事情が発生したとき」に該当すると判断されたことで繰上償還されました。
最後に、楽天投信投資顧問の「楽天USリート・トリプルエンジン(トルコリラ)毎月分配型」に関しては、急激なトルコリラ下落により特に流動性や取引コスト等に大きな影響が出てきていると判断され、また、これまでの純資産総額の推移を鑑みて、今後も同ファンドの純資産総額の大幅な増加を期待することは難しいと見込まれたことから繰上償還されました。
繰上償還の影響
投資家にとって投資信託の繰上償還は投資リスクの一つです。
保有している投資信託が繰上償還になった場合、その時点で評価損失があれば、償還時点で投資家の損失は確定されることになります。基準価額が回復することを期待して保有していた投資家も損失を確定し、現金化せざるをえません。一方、償還時に利益が出ていた場合は、利益を確定して通常は税金を支払うことになります。
これにより、投資家は運用計画を見直さざるをえなくなります。時間をかけて選んだ投資信託が、想定していた運用期間途中で運用終了されてしまうため、老後や子供の教育資金を目的とした資金計画をやり直す必要が生じてしまうわけです。
多くのファンドが繰上償還される現状を鑑みると、ファンドの選択には十分な注意が必要です。この繰上償還リスクを回避するためには、投資信託を購入する前に、次の点を確認することがとても大切です。
- 運用残高(純資産総額)が十分大きいこと
- 運用残高が減少傾向にないこと
なお、投資信託協会のデータによると、ETFを除いた追加型株式投資信託の1本当たりの平均残高は約148億円です(2022年6月末現在)。一方で、純資産総額(残高)が500億円を超える投資信託は338本(2022年6月末現在)運用されています。少なくとも残高が平均以上あり、その残高が増加傾向にある投資信託を選択した方がよいでしょう。
1口当たり償還額
2022年9月に償還した投資信託の1口当り償還額(A)を見ると、32本中18本は設定時の基準価額である10,000円を下回る金額で償還しました。
1口当り償還額が最も低かったのは、楽天投信投資顧問の「楽天USリート・トリプルエンジン(トルコリラ)毎月分配型」で、1口当り償還額は1,449.06円でした。同ファンドは、主として米国の不動産投資信託指数に連動する上場投資信託ならびに対円でのトルコリラのパフォーマンスを反映するユーロ円債に投資し、米国リートETFの配当金に加え、インカムプラス戦略ならびにトルコリラ戦略による収益の確保を目指すファンドでしたが、トルコリラの大幅下落を受け、繰上償還されました。
一方で、1口当り償還額が最も高かったのは、「ドイチェ・グローバルREIT投信(ロシアルーブルコース)(年2回決算型)」で1口当り償還額は36,762.81円でした。同ファンドは、ロシアルーブルでの為替取引が困難になったことを受け繰上償還されました。
1口当たり償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額
1口当り償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額(トータル・リターン)で見ると、この合計額(A+B)が10,000円を下回ったファンドが7本ありました。
1口当り償還額と運用期間中に投資家に支払われた分配金の合計額が最も低かったのは、大和アセットマネジメントの「ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 為替ヘッジあり(毎月分配型)」で、合計額は8,570.54円(1口当り償還額7,390.54円+分配金1,180円)でした。
一方、合計額が最も高かったのは、「ドイチェ・グローバルREIT投信(ロシアルーブルコース)(年2回決算型)」で、合計額は36,762.81円(1口当り償還額36,762.81円+分配金0円)でした。
2022年9月に償還した追加型株式投資信託の一覧
運用会社 | ファンド名 | 設定日 | 償還時純資産 総額 |
1口当り 償還額 (A) |
期中 分配金 (B) |
合計 (A) + (B) |
満期/繰上 |
野村 | 野村新興国債券投信・為替ヘッジあり(年1回決算型) | 2013.6.28 | 0 | 9,395.64 | 0.00 | 9,395.64 | 繰上 |
野村 | 野村新興国債券投信・為替ヘッジなし(年1回決算型) | 2013.6.28 | 6 | 15,129.65 | 0.00 | 15,129.65 | 繰上 |
日興 | 日興・ジャナス・グローバル・オポチュニティ・ファンド | 2007.10.31 | 1,699 | 19,751.66 | 700.00 | 20,451.66 | 満期 |
大和 | ハイグレード・オセアニア・ボンド・オープン・フレックスヘッジ(毎月決算型) | 2012.10.26 | 135 | 7,630.82 | 3,980.00 | 11,610.82 | 満期 |
大和 | ダイワ/ミレーアセット・グローバル・グレートコンシューマー株式ファンド(為替ヘッジあり) | 2012.9.20 | 264 | 12,170.43 | 5,630.00 | 17,800.43 | 満期 |
大和 | ダイワ/ミレーアセット・グローバル・グレートコンシューマー株式ファンド(為替ヘッジなし) | 2012.9.20 | 73 | 19,325.04 | 9,170.00 | 28,495.04 | 満期 |
大和 | 通貨選択型ダイワ/ミレーアセット・グローバル・グレートコンシューマー株式ファンド2 豪ドル・コース(毎月分配型) | 2014.6.27 | 210 | 12,093.51 | 1,440.00 | 13,533.51 | 満期 |
大和 | 通貨選択型ダイワ/ミレーアセット・グローバル・グレートコンシューマー株式ファンド2 ブラジル・レアル・コース(毎月分配型) | 2014.6.27 | 330 | 7,453.06 | 4,410.00 | 11,863.06 | 満期 |
大和 | 通貨選択型ダイワ/ミレーアセット・グローバル・グレートコンシューマー株式ファンド2 通貨セレクト・コース(毎月分配型) | 2014.6.27 | 107 | 6,526.26 | 4,555.00 | 11,081.26 | 満期 |
大和 | オーストラリア好配当株式オープン(毎月決算型) | 2012.7.31 | 392 | 7,806.20 | 5,600.00 | 13,406.20 | 満期 |
大和 | ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 為替ヘッジあり(毎月分配型) | 2012.9.28 | 321 | 7,390.54 | 1,180.00 | 8,570.54 | 満期 |
大和 | ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 為替ヘッジなし(毎月分配型) | 2012.9.28 | 67 | 8,962.16 | 6,710.00 | 15,672.16 | 満期 |
大和 | 通貨選択型 ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 日本円コース(毎月分配型) | 2012.9.28 | 9 | 7,392.55 | 1,180.00 | 8,572.55 | 満期 |
大和 | 通貨選択型 ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 通貨セレクトコース(毎月分配型) | 2012.9.28 | 7 | 3,048.93 | 7,885.00 | 10,933.93 | 満期 |
大和 | US債券NB戦略ファンド(為替ヘッジあり/年1回決算型) | 2013.7.12 | 3 | 8,626.42 | 0.00 | 8,626.42 | 繰上 |
大和 | US債券NB戦略ファンド(為替ヘッジなし/年1回決算型) | 2013.7.12 | 7 | 13,388.22 | 0.00 | 13,388.22 | 繰上 |
大和 | ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 為替ヘッジあり(年1回決算型) | 2013.7.12 | 0 | 8,675.73 | 0.00 | 8,675.73 | 繰上 |
大和 | ダイワ/NB・米国債券戦略ファンド 為替ヘッジなし(年1回決算型) | 2013.7.12 | 5 | 13,454.00 | 0.00 | 13,454.00 | 繰上 |
大和 | 京都応援バランスファンド(隔月分配型) | 2006.2.16 | 471 | 10,572.34 | 4,260.00 | 14,832.34 | 繰上 |
JPモルガン | JPMグローバル債券3分散ファンド(毎月決算型) | 2006.9.29 | 1,772 | 7,296.42 | 6,075.00 | 13,371.42 | 繰上 |
フィデリティ | フィデリティ・オーストラリア配当株投信 | 2012.5.24 | 1,502 | 8,974.89 | 12,180.00 | 21,154.89 | 満期 |
ドイチェ | グローバルREIT ロシア 毎月 | 2010.3.10 | 113 | 7,695.66 | 9,800.00 | 17,495.66 | 繰上 |
ドイチェ | グローバルREIT ロシア 年2 | 2010.3.10 | 40 | 36,762.81 | 0.00 | 36,762.81 | 繰上 |
三菱UFJ | スマート・プロテクター90オープン | 2017.5.9 | 1,739 | 9,175.01 | 0.00 | 9,175.01 | 条件 |
東京海上 | 東京海上・グローバルM&A戦略ファンド(為替ヘッジあり) | 2017.10.20 | 1,424 | 9,771.44 | 200.00 | 9,971.44 | 満期 |
東京海上 | 東京海上・グローバルM&A戦略ファンド(為替ヘッジなし) | 2017.10.20 | 592 | 11,939.35 | 350.00 | 12,289.35 | 満期 |
アムンディ | アムンディ・次世代イノベーティブ世界株式ファンド | 2020.6.2 | 1 | 11,142.13 | 0.00 | 11,142.13 | 繰上 |
三井住友トラスト | アメリカ高配当株オープン(毎月決算型) | 2013.5.24 | 159 | 10,849.31 | 6,500.00 | 17,349.31 | 満期 |
三井住友トラスト | アメリカ高配当株オープン(年2回決算型) | 2013.5.24 | 39 | 18,132.52 | 2,200.00 | 20,332.52 | 満期 |
三井住友DS | グローイング台湾株式ファンド | 2012.11.9 | 704 | 9,936.47 | 12,800.00 | 22,736.47 | 満期 |
楽天 | 楽天USリート・トリプルエンジン(トルコリラ)毎月分配型 | 2011.11.15 | 300 | 1,449.06 | 14,360.00 | 15,809.06 | 繰上 |
あおぞら | あおぞら・新グローバル分散ファンド(限定追加型)2017-09 | 2017.9.29 | 1,015 | 10,587.19 | 0.00 | 10,587.19 | 満期 |
(データ等出所:投資信託協会、EDINET、各ファンドの有価証券届出書・臨時報告書